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青葉書店に制服はなく、社長も従業員も青葉書店の名前が入った赤いエプロンをかけている。
「青葉ちゃん、いつもながらそのエプロン良く似合うよ。」
「もう、おじさんたら毎年見てるのに良く言いますよ。お世辞よりおやつの方が私は好きです。」
「今年も色気より食い気なんだね。それじゃ、あとよろしくね。」
そう言って社長は事務所に入っていった。
社長の息子は家が書店ではあったが、全くといっていいほど本には興味がなく、子供の頃から野球一筋だった。
高校でも野球をしていたがプロになるほどではなかったため大学に進学。
卒業後は本が好きというわけではないが、家業を継ぐために東京の書店に就職し修行をしていた。
「ちょっと山ノ上さん達、手伝ってもらっていいですか?」
琢磨が喜美子達に声をかけた。
「はーい、大丈夫ですよ。ちょうど手がすいた所です。」
貴美子が返事をして琢磨の方へ歩いて行き、青葉ちゃんも後に続く。
「うちは本屋なんだけど、小さな子供達が座ってお母さん達と絵本が読めるスペースを作ろうと思って。」
琢磨は東京の書店にあったキッズスペースを作ろうとしていた。
「どのくらいの広さにするんですか?」
貴美子が尋ねると、
「4畳半くらいの広さなら他のお客さんの邪魔にはならないだろうから、絵本コーナーの横に。」
琢磨の希望で、それほど広くない本屋の中にほのぼのとした場所ができた。
「青葉ちゃんも小さい頃にこんなコーナーがあったら、ここでゆっくり遊べたろうね?」
「お母さんだったら赤ん坊の私をつれて、一日中でもここにいるんじゃないの?」
貴美子と青葉ちゃんは面白がって言った。
数日後、先日作った絵本コーナー横のキッズスペースは好評で、赤ちゃんや小さな子供をつれたお母さん達が良く訪れるようになり、絵本の売り上げも上がった。
「このコーナー作っただけで、こんなに子供連れのお客さんが増えて、すごいですねー。琢磨さん。」
と、青葉ちゃんはとても感心していた。
夏休みの間体調のよいときだけの青葉書店でのお手伝いに、とてもやりがいを感じている青葉ちゃん。
休みが終わる頃には琢磨くんととても仲良くなった。
「またちょくちょく顔だしてよ。青葉ちゃんがいないとさみしいなぁ。」
「えー?そうですか?じゃあまたおやつの時間にお邪魔しまーす。私はおやつには目がないですから。あ、いえいえ。琢磨さんに顔を見せに来ますよ。」
琢磨と青葉ちゃんの掛け合いを、目を細めながら見守る社長と貴美子だった。
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