片隅の花

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「遅くなりました、お義父さま」 病室のカーテンを開けると 夕陽が義父を照らした・・・ 「着替えをしましょうね」 僅かに頷き、微笑みを浮かべる。 暖かな室温にして義父を裸体に。 2年前に卒中に倒れた義父を 見舞うのは私と夫だけ。 もっとも夫は職人気質、 仕事が忙しいと来ることはない。 同じ職人気質の義父は 菓子職人らしい繊細な指。 蒸したタオルで丁寧に拭いてやる。 「お義父さま、この指で私を  毎日可愛いがって下さったわ」 菓子技術は父譲りの夫、 商売力と“男力”は遺伝していない。 地味な私のすべてを開花したのは 「お義父さま・・・」 胸に顔を埋めて思い出す蜜月。 いずれ昭和の時代も過ぎて 荒波になる老舗商売を 跡取り息子の夫を支えて ゆかねばならない・・・ 愚かな義母や義妹は 実印の場所も資産も知らない。 「みんな・・・お義父さまから   私が預かってるわ・・・」 両手で丹念に身体を拭いてやる・・・。 かつて毎夜埋めた“義父”を包む。 義弟は“大切な・・・” “・・・”は何かしら? “知恵”でもあるし・・・ “お義父さま”の代わりでも・・・ でも・・・まだまだ 煌めく“閃光”に私を招くのは これしか・・・ないのだわ・・・ “お義父さま”に口づけた。
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