棘の香り

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「ここよ、ここ」 片手を振ると理恵はこちらへ。 長身に鮮やかなブルーのワンピース。 夜風に漂うカモミール・・・ 「フレンチを予約してあるの」 過ぎ行く男性の視線が 理恵の全身を舐めるように過ぎる。 相変わらず綺麗な女・・・ そして愚かな女。 学生の頃からそうだった。 親友だろうが後輩だろうが お構い無しに“恋人泥棒”。 『私の美貌がいけないの、ふふ』 いつかそんなこと、言ってたわ。 たぶん私が知らないと さっきまでの夫との情事・・・。 クローゼットにはカモミールの 芳香剤・・・欠かせたことはないのよ。 疑い始めた頃から 必ず怪しい日には理恵と約束。 香りを確認していたの・・・ 「いつもながらスリムな身体に  似合うワンピースを着るのね」 「美也子もそんなにゆったりした  洋服ばかり選らばないで、たまには  セクシーなもので御主人を  喜ばせて差し上げたら?」 「そうねぇ・・・でもしばらくは無理」 「  ?  」 「妊娠してるの、冬には  彼の子供が産まれるの、ふふ」 理恵の美しい顔が 私の棘で萎んでゆく・・・。
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