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橋下の川の音は幽霊の行軍の足音のようで、垂れる電燈たちは獲物をねらうウツボのようだった。だから一刻も早く抜け出そうと必死になった。左からくる風がそれを邪魔しようと意地悪い顔で息を吹きかけていた。
「もういやだ。いやだ。死にたくない。」
そう心で叫んでいると、にわかに目の前が明るくなった―。
ぶた鼻のこいつは
陽気に歌う
ブヒブヒ ブヒブヒ ブッヒヒ
ぶた鼻のこいつは
月夜へ歌う
ブヒブヒ ブヒブヒ ブッヒヒ
清水な朝雨
広博な昼日
だけどこいつは夜半を行く
泥酔な夜雨
強奪な夜月
だからこいつは夜半を行く
ブヒブヒ ブヒブヒ ブッヒヒ
ブヒブヒ ブヒブヒ ブッヒヒ
それは四角い目が光り、ぶた鼻で、ところどころにタイヤを付けたお化け列車だった。鼻をブヒブヒ鳴らしながら橋の中央を渡ってきた。僕は見つかるとやばいと思い、すぐさま欄干の隅にしゃがみ込み、お化け列車が通り過ぎるのを待った。
ガチャンガチャン、キュー。しかし運悪くお化け列車は僕の横で停車した。ちらっとそちらを見てみると、バス停の標識のようなものが立っていて、そこに『クジラえき』と駅名が書かれていた。僕はあやまって停車するところにしゃがみ込んでしまったのだった。
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