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間もなく扉は開き、中から足の透けた影のような人達が出てきた。僕が背を向けしゃがみながらその光景を横目で観察していると、とうとう帽子をかぶった車掌さんと目が合ってしまった。僕はすかさず目を背けたが、車掌さんはもう僕の後ろまで来ていて、うすれた手を僕の肩に乗せて不敵な笑みを浮かべながらこう言った。
「子供はタダですよ。どうです、お家まで送って行きましょうか。」
僕は恐怖で断ることができず、その言葉に甘えて、ふるえながら橙色に光る車内へ足をふみ入れた。ふみ入れた頃にはもう車掌さんの姿どこにもなかった。
列車は進んできた方向とは逆に動き出した。僕が目指す橋の向こうにむかって走り出した。車内にはお客さんがちらほらいて、僕の隣にはたけ高い帽子にステッキを持った影法師のお兄さんがいた。通路をはさんで向こう側には、体をネバネバさせ、全身にイボイボを付けた蛙が座っていた。その蛙は背の部分が緑でお腹の部分が灰色で、大きさは僕の五倍くらいあるオオガエルだった。蛙は隣にいる毛むくじゃらの山男と楽しくゲコゲコとおしゃべりをしていた。僕はおそろしくておそろしくて、心臓をバクバクさせながら視線を窓の外にそらした。
行軍に揺れ進む川はどろっと暗く、その向こうには建物の明かりがちらほらあるもののどこか頼りない感じだった。唯一あおぐと見える少し西に傾いた下弦の月だけがにっこり笑っていて、いきているんだと思った。
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