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お化け列車はズングンと進んでいった。その独特なリズムに乗って、ホエールも低く声を鳴らした。その声は低く壮大に幻想的な音色で宙へ突き抜けた。僕はとんでもないものの上に今自分がいることをあらためて感じた。
とうとうお化け列車は橋を渡り終え、下り坂に入った。下り坂はジェットコースターみたいで、僕はシートの頭に捕まりながら、顔を伏せて目をつぶって必死に耐えた。胸がしゅりゅーとした。列車は坂を下り終わった後もしばらくその勢いのままに左右にお店が並ぶ道をガチャバタと抜けていった。
走る勢いがやんで、顔をあげるともうすぐそこにメモリアル球場が見えた。メモリアル球場から僕の家は近く、降りるとすればこの辺りだった。僕はここにきてようやく重大なことに気が付いた。僕はすかさずステッキ持った影のお兄さんの方を向いてあせり気味に訊いた。
「このでんしゃはどこでとまります。」
しかしお兄さんは口がないらしく、まごついていた。
「メモリアルきゅうじょうでとまりますか。」
僕は早口でまた訊いた。けれど影のお兄さんはまだまごついていて、何も答えてくれなかった。
すると左の頬に嫌な冷気を感じだ。
「メモリアル球場に行きたいのか。ケロケロッケロ。」
それは気味悪いあのオオガエルだった。僕は驚いて体を硬直させながら頷いた。するとまた不気味な笑い声を出して、
「メモリアル球場には止まらんぞ。この列車はこのまま妖怪山に行くんや。ケロケロッケロ。」
ネバネバの体液が僕の膝に落ちた。僕は背筋を凍らせた。そして泣きながら列車の先頭に向かってさけんだ。
「おねがいします。ここでおろしてください。」
しかし不気味なブタ鼻を鳴らす音だけが返ってくるだけでそれ以上の返事はなかった。
「ケロケロッケロ。もう遅いぞ。もう遅いんやぞ。お前は妖怪山行や。」
そうしてオオガエルは不気味な笑い声を出しながら、ふくれた横腹をゆらして隣の車両へと歩いて行った。僕はしゃくり泣きして隣のお兄さんに助けを求めよとした。けれど影の兄さんは申し訳なさそうに目を逸らした。
窓から外を見てみると、遠くの方に麓が血色に光る山が見えた。僕の心臓は恐怖に痺れて、過呼吸のような状態になった。むねがいたい。あたまがぐるぐるする。そうして胸と頭がごわんごわんとますます気違いに暴れだして、
「おねがい、おねがい。たすけて、だれか。だれか。おねがいします。とうちゃん。かあちゃん、にいちゃん…………。」
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