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手すりから身を乗り出して、下を見てみた。
急に降ってきた雨でアスファルトは濡れ、信号や看板の灯りを滲ませていた。
歩道には色とりどりの小さな傘が、ゆらゆらと揺れている。
このマンションの住人には迷惑をかけてしまうだろう。でもかまうもんか。どうなったって知らない。僕は、この苦しい人生を終わらせたいんだ。
ふと、顔に当たっていた雨粒が途絶えた。
驚いて振り向くと、ランドセルをしょった小さな男の子が、むすっとした顔で真っ赤な傘を差し出していた。
……意味がわからない。この子は、何をしてるんだ?
思わず呆然として、男の子を見つめた。
真っ赤な傘に、焦げ茶色のランドセル。白い、シンプルなデザインのTシャツ。青いハーフパンツ──水色の、いろんな車の絵がプリントされた長靴。
ああ──
僕が幼稚園に行ってた頃に買ってもらったのと同じ長靴だ。あの車の絵が大好きで、ねだって買ってもらったんだ。
ランドセルも、濃いブルーにした。僕に選ばせてくれたんだ。
卒園式には、父や母はもちろん、祖父母まで来た。
入学式にも、父も母も祖父母も来た。
ことあるごとに、みんなが僕を見に来た。
誕生日にはおもちゃを買ってくれた。ケーキはいつも大きいやつ。
僕は。
僕は。
それを当たり前って思ってたけど、
僕は、こんなにも愛されて生きてきたんだ。
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