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数字の3が生まれたのは白い大地の上だった。いくつもの罫線たちが、一糸乱れることなく、お行儀よく整列していた。彼らは地平線の向こうを目指してまっすぐ伸び続けていた。
周りを見渡してもひとっこひとり見あたらなかったので、彼はとりあえず線たちに挨拶をしてみることにした。
「やあ、こんにちわ」
彼らはじっと前だけを見据えていた。彼など存在しないかのように無視を決め込んで、ただじっと整列し続けているだけなのだった。絶対的な規律に心を殺して従う軍隊のように。
「おい、そこの君」
頭上から降ってきたひょうきんな声に顔をあげると、そこには背筋をしゃんとのばしたちょびひげの紳士、1が立っていた。
「こいつにいくら話しかけたってむださ。」
1は手近な罫線に寄りかかり、余裕の笑みを浮かべながら言った。
「やつらは心をなくして世界を区切っているだけなのさ」
「世界を…」
「そう、区切っているんだ。わかるかい」
3は首をかしげた。さっぱり意味がわからないのだった。紳士はさも可笑しそうに言ってみせる。
「そうしないと、この世なんてのは、あっちへいったりこっちへいったり、まがりくねってしまうのさ。」
「それは困ることなのかい」
「そうだな、すこし、仕事がやりづらくなる」
仕事?彼は猫背の体をますます丸くして考えてみる。すると、今にわかるさ、ほらきた、と1が自分の横を指した。そこにはいつの間にか、十字架の形をした男が、にこにこしながら線の上に立っている。彼はプラス記号の十字架であった。
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