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「ぼくはこれから自分以上の存在になれる」
紳士は十字架を愛おしそうにみつめた。
すると十字架の横に美しい数字、4が降り立って、1の手をとって優しく微笑んだ。彼女は僕を見て、柔らかな声で尋ねた。
「あら、迷子なの?」
3が顔を赤らめながら小さく頷くと、4はふふっ、と微笑んで、1と一緒に、満足気にイコールの向こうへ消えていくのだった。
彼女と紳士は一瞬のうちに姿を消して、そのかわりに頑丈そうな男、5の姿がイコールの向こうへ現れた。彼に話しかけるには少し距離が離れすぎていた。3はこの世界のことをもっと教えてくれる者がいないかと、周囲をぐるりと見渡した。
すると足下に貧弱な体つきをした中年の2が恨めしげに見上げているのに気づいた。
「やあこんにちわ」
3はかがんで2に挨拶をした。2は疎ましそうに彼を見上げて、面倒くさそうにこう言った。
「こんにちわ、さようなら」
「どういうことだい」
「おまえは見えないのかい、俺の横にあるこの一本線が」
2の表情は悲壮感に満ちて、声は今にも泣き出しそうにか細い声だった。よく見ると、確かに短い線が、2の横に浮かんでいる。軍隊とは違って、少し危うげな、頼りない線だ。それはマイナスの線であった。
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