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僕はまだ自分が夢から覚めやらないのだと思った。だが何度見てもそこには不気味な時間が表示されてあった。先輩にも同じように見えているようで、
「俺、そろそろやべえかもしんない」とぶつくさ独り言を言い始めた。
「先輩、先輩、しっかりしてください」
「このまま、脳梗塞とかなるかもしんない。俺、まだay?:*o*me√r十代なのにな…」
「え?」僕は耳を疑った。「今、なんていったんです?」
「だから、まだ俺、ay?:*o*me√r2歳になったばかりなのに、こんなー」
そこで先輩は固まった。僕も何にも言えなくなった。今までもこの人は、徹夜明けや、六ヶ月連続勤務の時などに、何度かおかしなことを口走る時はあった。だが今のような、不気味な言葉を口走るのは、確かに異常だった。
長い沈黙のあとで、僕は気晴らしをするために話題を変えることにした。
「先輩、僕の作った予算表、後でいいんで、チェックしてくれますか」
「お、おう」先輩は必死に威厳を取り戻そうとして、答えた。「見せてみろ」
「あ、後でいいですよ」
「なんでだよ」
先輩は意固地になって、身を乗り出した。どうやら自分の頭のはっきりしていることを何が何でも証明して見せたいらしい。こういう意固地なところが先輩の憎めないところでもあり、長年会社に酷使され続ける原因の一つでもあった。僕は何も言わずに椅子を引いて、先輩に場所を譲った。
「…おい、なんだ、これ」
「はい?」
「はい?じゃないよ。ふざけてんのか、お前」
僕はその物言いに少しムッとして、反論してやろうと思い、画面を覗き込んだ。そしてそこへ表示されている文字を見て、息を飲んだ。ある特定の文字が、文字化けしているのだった。そのおかげで、丹精込めて作り上げたエクセルの計算式が、全て崩壊していた。
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