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それから手当たり次第に、目に入った書類へ飛びついた。どれを見ても同じだった。明らかにある数字が消失していた。しかしその数字が一体なんであったか、さっぱり思い出せないのだった。それは先ほどまで確かに見ていた夢のように、掴もうとしても、掴めないものだった。
僕はその場へ呆然と崩折れた。働きすぎて、先輩共々、おかしくなってしまったんだ。もう今日で、何日間の連続出勤になる?でも、僕が抜けたらこの会社はどうなる?崩壊するに決まっている!
「おい!」不意に呼ばれ、我に返った。ニコチンですっかり元気を取り戻した先輩の声だった。「おい、お前、なんだっけ、お前ーやべえ、名前が思い出せない」
僕は首から下げた自分の社員証を見た。そして、そこへ書かれた名前を見た。「田中 ay?:*o*me√r郎」と書かれてあった。
その瞬間、僕の脳裏に、何かが閃光のように輝いた。それはしかし閃いた途端、ウナギのようにヌルヌルと手の中から逃げ出そうとしていた。僕は必死にそれを捉えようとした。逃すものか!僕は、僕にはそれができるような気がした。それは28年間というもの、ずっと共に生きてきたものだった。
僕はその名前を何度も呪った、二人の兄ちゃんはそれぞれに名前を竜太郎と虎太朗という格好いい名前をもらっているのに、両親はなぜだか僕にだけ雑な名前をつけた。僕は何度もそれを呪った!だが今は、その名前が、その名前が僕を、世界を救おうとしている…!
「そうだ、思い出したぞ、田中三郎だ!」
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