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僕はとうとうそれをとっ捕まえた。すると目の前に「3」が現れた、彼は不安げにブルブル震えながら、僕の膝の上にちょこんと乗っかっていた。僕は「3」の首根っこを掴んだ。「3」は不思議な手触りをしていた。それは初めてキスをした女の子の唇の数倍柔らかかった。僕はその生暖かな感触に怯えた。そしてもう次の瞬間にはその「3」をどうしたら良いかわからないで困った。
「3」はしかし僕以上に怯えきった様子でこちらを見上げていた。彼の目から涙がこぼれた。僕は数字が泣くところを生まれて初めて見たので驚いた。
「離しておくれ」彼はか細い声で呟いた。「僕、なにかを足されるのも、引かれるのも、分解されるのもいやだ。」彼の体はがたがたと震えだして、それはこの世界を揺さぶるほどだった。「僕はずっと、僕のままでいたいよ」
僕は呆然と彼を見つめた。
「そんなのはわがままだ」僕は自分の声の厳しさに驚いた。「皆、何かを足されたり、引かれたりしながら、我慢して生きているんだ、僕だって…」僕はそこで言葉に詰まった。言葉は彼のようには逃げ出していないはずなのに。すると3がつぶやいた。
「そんなの、知ったこっちゃないよ」
彼は小刻みに震えていた。僕はもうそれで、どうしたら良いかわからなくなった。だが次の瞬間にはもう、彼を離していた。彼は信じられないという顔で僕を見上げた。
「勝手にしろよ」
「でも…いいのかい」
「ああ、知ったこっちゃないね。」
「だけど、その、僕がいなくなったら、困るだろう…世界の計算式は崩壊するし、それに君はただのタナカ・ロウになるんだよ、それにー」
僕は笑った。
「それがなんだって言うんだ?」僕は自分に対して笑っていたのだった。「そんなこと、僕の知ったことじゃない」
「でもー」
「さっさと行けよ。僕の気が変わる前に」
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