新しい関係

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高校の卒業式も無事終えて、春休みに入った。 短大の入学式まであと2週間。 「響ー!遊ぼうよー!!」 携帯を取ると、ちいちゃんの大きな声が耳に響く。 「やっとうちら遊べるんだよー!?!?。 買い物も行きたいし、ご飯も食べに行きたいし、映画も見たいし!!。もっと響と遊びたい!!」 ちいちゃんが、電話口から叫んでいる。 卒業して心はもう短大へと向かってるけど、 実際はまだ高校生だ。 3月31日まではまだ高校生という現実。 そんな中、ちいちゃんからの猛烈なアプローチ。 ちいちゃんとは卒業してから、2日おきくらいに頻回には会ってるけど。 まだまだちいちゃんは遊び足りないみたいだ。 「うん。いーよ。明日遊ぼうか。」 明日は何も予定がない。 「うん!明日ね!」 「渚は?。渚も呼んだら??」 ちいちゃんと遊ぶ時は大抵、渚が一緒にいる。 明日も誘ってみるといいんじゃないかな?。 「呼んでもいーい??。渚も暇してるだろうし。」 ちいちゃんは嬉しそうに答える。 「いいよ!」 ちいちゃんと渚は毎日のように会っている。 仲良しは相変わらずで、羨ましいくらいだ。 そんな私はというと、、、。 「えー!伊藤と会ってないの!?!?」 待ち合わせのカフェで、ちいちゃんからの罵声が飛ぶ。 「、、、うん。向こうも色々忙しいみたいだし。」 「えー!!信じられない!もう何も障害ないんだよー??」 ちいちゃんが目を丸くしている。 まぁ、そういう反応になる事は何となくわかってはいたけれど。 「そうっすよ!!もう自由じゃないっすか!? 何で会わないんですか!?。」 一緒に来た渚からも、散々な攻撃を受けてしまう。 隣に座るちぃちゃんも、首をかしげながら言う。 「なんで会わないのー?。会いに行けばいーじゃん!電話はー?」 「電話はしてるよ。」 電話は毎日しているんだ。 その日あった事を毎晩電話では話をしていて、何だかそれだけで満たされている自分もいて。 「会わないと、ダメっすよ!」 渚が大きな声で言う。 「そーだよ!うちらと遊んでる場合じゃないよ!!。てっきり、毎日のように会ってラブラブしてるのかと思ってた!!」 ちいちゃんはそう思い込んで、想像していたようだ。 けれど、実際は全く違う。 そうか、付き合ってるって、そうゆうものなのか。 冷静になって、感心している自分がいる。 毎日会っていて、ラブラブな2人を目の前にすると、今の自分とは違う気がするのはわかる。 会いたいとは思うけど、なんだか、恥ずかしい気持ちもあるんだよなぁ。 卒業式以来だし、、、。 色々考えを巡らせていると、ちいちゃんが突然大声で叫んだ。 「もう、今日解散!!」 ちいちゃんの言葉にびっくりする私。 「え!?。みんなで買い物いくんじゃ?」 そのつもりで来たのに、急に解散!って! 「響、今から伊藤に電話しな!今から会うの!!」 ちいちゃんが暴走し始める。 えー!!! そんな!いきなり!?!? 「いいっすね!それ!先輩電話しちゃってくださいよ!俺ら買い物して映画見て帰るんで!」 渚もちぃちゃんの提案に乗っかって、私をけしかける。 まあ、渚はちいちゃんと2人でデートできるから勧めてるっていうのもあるんだろうけど。 でも、急すぎる展開についていけない。 「え、今から!?!?。先生困るかもしれないじゃん!」 「困んないよ!好きな彼女から会いたいって言われて困る男なんていないって!!伊藤だって会いたいと思ってるよ!!!」 暴走しているちいちゃんはもう止められない。 だいたいにして、何を根拠に、、、。 それに好きな彼女って、、、。 ちぃちゃんの言葉に一人恥ずかしくなって顔を赤くしてしまう私。 それでも、ちいちゃんの暴走は止まることを知らない。 「今すぐだよ!早く!!電話だよ!!」 ちいちゃんの猛攻撃に耐えかねて、カバンから恐る恐る携帯を取り出したんだけど。 困るよ、、、。 いきなり会いたいなんて言ったら、先生絶対困ると思うよ、、、。 携帯を片手に、なかなかボタンが押せないでいる私。 「あー!もう!じれったい!響!」 ちいちゃんが半ば怒り出している。 「わかったよ!!かけるよ!」 もう、ちいちゃんには何を言っても無駄だ。 私も半ば自暴自棄になりつつ、携帯のボタンを押したんだ。 もう、いーや!とりあえず電話しよう!! プルルルル、、、。 5回目の通話音を聞いたところで、低い声が受話器から聞こえた。 「はい」 先生の声だ。 心臓がドキドキしているのがわかる。 「あの、、私。」 「おう、どうした?」 いつもの、先生の声だ。 隣からの、ちいちゃんと渚の熱い視線を感じながら、たじたじと会話をつなぐ。 「あのね、、今ちいちゃんと渚と街に来てるんだけど、、、。」 「あぁ、そうか。どうした?」 淡々と聞く先生。 そうだよね、どうした?だよね、、、。 「あのね、、、。」 なかなか切り出せない私。 隣からは、ちいちゃんが、小声でアドバイスしてくれている。 「響!会いたい!だよ!!」 うん、それはわかってはいるんだけれど、、。 なかなかその一言が言えないでいる私。 会いたい、ただ一言なのに。 ちぃちゃんが隣でしびれを切らしているのがわかる。 もう、いいや!言っちゃえ!! 携帯を持つ手にぐっと力が入る。 「これから会える?会いたいの!」 電話口からは、返答がない。 少し間が開く。 やっぱり、まずかったかな?? 急に恥ずかしさと、不安感に襲われる。 だけど、すぐに電話口からは、ふっと笑うような声が聞こえたんだ。 「千草らにふっかけられたんだろ。」 先生が笑いながらそう言っている。 お見通しだったみたい。 恥ずかしいなぁ。 中学生みたいだ、私、、、。 恥ずかしさでいっぱいになっている私に、 「いいよ。うちおいで。」と、優しい声で先生が言う。 「いいの??」 慌てて聞き返してしまう私。 「いいよ。っていうか、ダメなわけがないだろ。」 ダメなわけがない、、、。 先生の言葉がすっと心に入ってきた。 そうか。 そうなんだ。 いいんだ。 「おまえ遠慮してたんだろ。迷惑とか思って会いに来づらかったんだろ。」 全部見抜かれていたようだ。 先生には全てお見通しだ。 「うん。」 「ったく。そんな考えは早く捨てろ。」 ぶっきらぼうだけれど、なんだか優しい先生の声。 「早く来い。待ってるから。」 待ってるから 先生の言ったその言葉に、胸が高鳴る。 ドキドキが止まらない。 「うん!すぐ行く!」 隣では、ちいちゃんと渚がニヤニヤと笑って私を見ていた。 そうか。 こんな簡単なことなんだ。 色々考えてしまうのは、高校生の時からずっとそうだ。 それが当たり前になってたけれど。 会いたいって思う気持ちを行動に移してもいいんだ。 そうか、私、卒業したんだから! 「ちいちゃん!渚!ちょっと行ってくる!」 荷物をまとめて店を出る。 「早く行きな!ラブラブしてくるんだよ!」 ちいちゃんが背中を押してくれた。 「行ってらっしゃい、先輩!!」 渚もニコニコ笑っている。 足取りは軽い。 早く会いたい。 会って話したいことが沢山ある。 電話だけじゃ伝えきれない。 電話だけじゃわからない。 顔を見て、触れて、先生を早く感じたくて。 気づけば走り出していた。 ピンポーン。 職員住宅のアパートのチャイムを鳴らす。 私、髪の毛とか大丈夫かな。 急いできたから、汗とか大丈夫かな、、、。 チャイムを鳴らした後で、色々気になり始めたけれど、もう遅い。 ガチャ。 ドアが開く。 そこには卒業してから、ぼんやりと頭の中で思い浮かべていた先生の姿がある。 あぁ、先生だ。 実物を目の前にして、急に緊張が走る。 「よぉ。久しぶりだな。どうぞ。」 久しぶりに見る先生の顔。 そうだ、先生、こんな姿だったなぁ。 胸がきゅぅっと締め付けられる。 「なんだ、走ってきたのか。」 先生は少し笑って言う。 息を切らして走ってきたのも、すぐにわかってしまったみたい。 笑う先生の顔。 その顔を見ると、抑えてた気持ちが溢れ出してしまう。 止められないこの気持ち。 「会いたかったの!すごく、すごく。」 玄関先で、いきなりこんなことを言って、先生は驚いてる。 居間に行こうとしていた先生が、足を止めて、 ゆっくり私に近づく。 頭を掻きながらボソッと呟く。 「ったく、おまえは。なに遠慮してんだよ」 「だって、会いにいっちゃいけないのかなとか、仕事忙しいのかなとか。いつ会えるのかなとか、会いに行ってもいいのかなとか、色々考えて、、、。でも、やっぱり会いたくて!!」 私の顔は真っ赤になっていたと思う。 思っていた事を先生に打ち明けたんだ。 彼氏に会いに行く事は、きっと普通の事なんだろうけど。 私にはすぐ飛び越えられるハードルじゃなかったんだ。 ずっと長い間教師と生徒という立場でいた。 会えない時間が長くて、それが当たり前になっていたんだ。 どんな風に自分の心をコントロールすればいいのかがわからなくて、、、。 そんな自分が少し情けなく思えてきて、気づけば涙が頬を伝っていた。 そんな私に近づき、優しく抱きしめてくれる先生。 そして、ゆっくり諭すように、優しく耳元で囁いた。 「響、俺も会いたかったよ。こうやっていつでも会いにくればいいのに。」 先生も会いたいと思ってくれてたの? また涙が溢れる。 「いいの?」 恐る恐る聞く。 「大歓迎」 そう言って先生が私を見つめて、笑った。 「ごめんね。」 「なにが?」 「いつも一人で考えて、勝手に悩んで」 そう、私はいつもそうなの。 素直だって先生は言うけれど、全然素直じゃないと思う。 いつも迷って、考え込んで、思っていることを伝えられない。 こうやって、先生に諭されないと気づけないところが沢山あるんだ。 こんなに子供で、申し訳無い気持ちでいっぱいなのに。 「いいよ。おまえのそういうところが好きだから。」 私を抱きしめながら優しくそう言ってくれる先生。 好き、という言葉が心に響く。 私はこんな自分、嫌なのに、、、。 そんな嫌な所も好きだと言ってくれる先生。 その、気持ちが嬉しくて。 先生の背中にゆっくり腕を回した。 気持ちを確かめるように、先生を抱きしめる。 「まぁ、今回は俺も悪かったよ。俺も会いに行けばよかったんだよな。会いたい時に会いに行くって事が俺もまだ慣れてないからな。」 耳元で先生の素直な想いを聞く。 あぁ、そうか。 先生も慣れていないんだ。 そう思うと、背伸びしていたことが、我慢していたことが、不思議とちっぽけな事に思えてきた。 普通の彼氏、彼女になったばかりの私たち。 慣れないことが沢山あって、お互いの事を大切に思っているからこそ、前への一歩が踏み出せないでいたのかもしれない。 「会いたいときは会いに行くし、おまえも会いにきて。」 先生の言葉が、すっと心に入ってくる。 「うん。」 「大丈夫だから。」 そう言った先生の言葉は力強い。 「うん。」 先生はやっぱりすごいなぁ。 いつでも私の道標だ。 とんなに悩んでも、安心できる答えを、いつも私にくれるんだ。 そして一瞬で、私を幸せにしてくれる。 先生の腕の中は温かい。 腕に包まれている安心感、幸福感、これに勝るものは絶対に無いと思う。 そんな事を思っていると、先生がぼそっと耳元で言ったんだ。 「我慢とかすんなよ。俺も、もうしない。」 ゆっくり先生の顔を見上げると、真剣な眼差しで私の顔をまっすぐ見つめている。 そして、優しいキスを受け入れる。 やっぱり顔を見たかった。 会いたかった。 先生のぬくもりに触れたかったんだ。 キスをされて、朦朧となってる私。 唇を離され、恥ずかしい気持ちでいっぱいに なってるところで、先生がふいに思い出したように問いかける。 「で?」 「ん?」 「宿題考えてきた?」 「宿題?」 先生に言われて、はっと思い出す。 この前卒業式の日の夜、車の中で言われた事だ。 名前、、のことだよね?? 「、、、先生」 「じゃなくて」 「、、、耕作さん?」 「、、、」 何も答えない先生。 私の答えは違っていたみたい。 少し考える。 何て呼べばいいの?? 困って考え込む私に先生は言ったんだ。 「コウでいいよ。」 え!? コウ!? 頭が真っ白になった。 そんな呼び方、、、9歳も年上の人に?? いいのかな? 先生はふっと笑う。 「ハードル高くしてみた。」 いたずらっ子のように笑う先生。 完璧子供扱いされてるなぁ。 先生から見たら子供なんだろうけど。 なんだか悔しい。 「もうっ!!」 「ほら、呼んでみろ?」 先生は笑いながら言う。 「本当に呼ぶよ?いいの??」 先生の笑顔を見るとドキドキしっぱなしだ。 「どうぞ。」 先生は笑ってる。 勇気を出して、言ってみる。 本当にいいのかな? 「、、コウ」 そう言うと、先生は優しく笑って私の頭をポンポンと軽く叩いた。 「よくできました。」 そう言った先生の顔が、少し照れているようにも見えて、なんだか、心が熱くなる。 「コウ」 「なんだよ」 「コウ」 「何」 「コウ」 「もーいいよ。続けて呼ばれると、恥ずかしくなるから、やめろ。」 そう言って照れている先生。 ふっと私も笑顔になる。 「コウ」 何回も呼びたくなる。 そんな照れたような歯痒い表情をされると、 私まで嬉しくなってきて。 「だから何」 「大好き」 少し離れかけていた体に、今度は私からぎゅっと抱きしめた。 先生の大きな背中。 「ったく、年甲斐もなく、俺は何やってるんだろうな、、、。」 そう言って頭をポリポリかくその仕草も、照れたように笑う笑顔も、全てが愛おしい。 卒業してからまた一歩近づけた。 涙はもう出ない。 自然な笑顔に戻っていた。 ここから始まるんだ。 私たちの新たなスタート。
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