傘のこえ

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梅雨の時期の晴れは長くは続かない。 そういうものあり、翌日は再び雨だった。 もちろん、私は傘持って外出した。 電車の中、私は目的地の駅に着くのを待っていた。 移動中はスマートフォンを見ているのがほとんどなのは、もはやお約束な事… こういった事も、傘を忘れる原因の一つじゃないのだろうか… 私は窓から見える情景を眺めていた。 …雲行きが怪しいな… 既に雨は降っているけど、この後大丈夫かな… 少しして席が空いた。 私はそこに腰かけた。 座る時、手に持っている状態だと傘は高さが合わない事もあり、こういう理由でどこか別のところに置いたりかけたりする事を自然にやるのだろう。 私が座ってる場所は、席の隅っこで傘を引っ掛けられる場所があった。 すると、私が持っている傘から声が聞こえた。 『ここにかけてよ。忘れる可能性はあるかもしれないけど、無理させるわけにもいかないわ』 今の状態は、意識的に傘を持たなければ倒したり歩く場所に傘が出たりして不便な状態だった。 ちょうど今私がいる場所は、引っ掛けておけば持つ必要がないスペースが近くにあった。 ここにかければ、傘を持っている事を意識しすぎなくて済むであろう。 しかし、私は傘に言った。 …ありがとね。 でも大丈夫だよ。 『…?』 私はそこに傘をかけず、あくまで傘を持つ事を選んだ。 私は座った状態で、傘を離さないように持ち続けていた。 その様子を傘は不思議に思っていた。 (なんでそんな思いをしてまで…?) 私は傘を持つ事を意識しながら、電車が目的地に着くのをただ待ち続けていた。
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