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今も降りしきる暴風雨の中、ようやく自宅に到着した。
私は靴を脱ぐ前に、傘を元あった場所に戻した。
閉じて濡れている傘は、びしょ濡れになっている私を見て泣いているようにも見えた。
『どうして…?こんなにびしょ濡れになっちゃって…』
傘よりもびしょ濡れになり、玄関が水浸しになった中でその場に座り込んでいる私を悲しそうに見て傘は言った。
私は傘に言った。
大丈夫だよ。
『…?』
私からの意外な返答に傘はキョトンとしたようだった。
私は言った。
確かに、すごいびしょ濡れなのは事実だけど…
この程度なら、まだマシな方だよ。
『どういう事…?』
そう話す傘に、私は言った。
というのも…
私がこうなる事で、君を守れたからさ。
『…!』
私が言った事に傘は何かに気づいた反応をした。
私は言った。
私は濡れても着替えればいい。
でも君は壊れちゃったら直せなくなっちゃうからね。
一応、直し方は知ってるけど、壊れ方によってはそれさえ出来なくなっちゃう可能性もあるし…
こういう事を今まで以上に思ったのも、この間の事がきっかけだったんだ。
私の中で、あの時街中で見かけた傘の事がよぎった。
置き去りにされた傘。
壊れる事を知っていながらダメもとで差してあっさり壊されていた傘。
そして、そのままあっさり捨てられ道端に残骸と化して放置された傘…
忘れていってあっさり諦めたり、壊れるのを前提にわざわざ傘をダメもとで差して見す見すこうなって容赦なく捨てられてる様子を見た時に、ひそかに聞いたんだ。
傘の悲しむ声を…
実際の音として聞こえたわけじゃなくても、私にはそのように思えたんだ。
それから私は今まで以上に本格的に心に決めたんだ。
傘をもっと大事にしようってね。
私としては、『濡れたら困るもの』さえ守れれば、私自身がびしょ濡れになったって構わないさ。
何より、大切にしたいと思っている君を守れればね。
同時に、これは私にとって君に対する恩返しでもあるんだ。
『…?』
当たり前の事すぎて多くの人は忘れてしまっているけど、傘は『私達を雨に濡れないようにいつも守ってくれている存在』なんだという事。
君がいるからこそ、雨に濡れずに外を歩けるんだ。
だからこそ私は、君を守ってあげたかったんだ。
『…』
雨から私を守ってくれてるなら、こういう時は私が君を守る番なんだ。
こうして君に日頃の恩返しが出来てよかったと思ってるよ。
このびしょ濡れは、まさしくそれを果たせた証だよ。
傘はしばらく何も言わず、私の事を見ていた。
傘についていた雨水が傘を伝い、玄関の床に落ちていった。
今の傘から伝っている雨水は、傘の嬉し涙のように私には思えた…
そう思う私の見る先に、とある傘と関係のあるキャラクターのグッズが置かれていた。
私が聞こえた傘の声は、間違いなくこのキャラクターだった。
そして、再びこの声で、傘は私に言った。
『…ありがとね』
私は小さく微笑み、こくりと頷いた。
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