傘のこえ

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翌日。 今日も雨だった。 昨日とは真逆のように、静かに音を立てて降っている。 君の出番だよ。 私は傘を持って外出した。 『うん、行こう!』 傘も嬉しそうに私にそう言った。 降りしきる雨の中、私は傘を差して歩いていた。 傘を差して歩いている中、私はあらためて実感した事があった。 傘はシンプルながらも、傘だからこそ出来るありがたい事を常に私達にしてくれている。 私はあらためて気づいた。 傘があるからこそ雨の日も外に出られるんだ。 これも、ありがたい事だけど当たり前すぎて多くの人は忘れてしまっている。 こういった身近な傘の有難みを心から実感すれば、もっと傘を大事に出来るようになるはずだ。 こういったひそかな有難みは、ひそかに多くの人が見落としている事であり、雨の日もそうであろう。 雨だって、『いつもの過ごし方』からすれば不便に思う時もあるけど、雨にも晴れに負けない本当にいい事がある。 雨があるからこそ、これほど広い地上や生きる者全てを潤して、穀(たなつもの)や百々の木草を日の大神と共に育めるんだ。 これもひそかに私達が見落としている大事な事だよね。 本当にいい事に心から気づければ、それを心から好きになり、そうなる事で、それはさらにいい事へと通じさせてくれるんだ。 そして何よりも… 雨の日は、大切な君とこうして関われる絶好の機会だからね。 今日はどこ行こうかな… 迷う事はない。 君と一緒にいれば、雨の日はどこでも楽しい気持ちになれるからね。 傘は笑顔でこくりと頷いた。 傘の上では、降りしきる雨の音が響き渡っている。 その雨の音は、傘の喜ぶ声。 降る雨は、傘の気持ちを表した嬉し涙だと私には思えたのだった。 今もこれからもよろしくね、私の大切な傘。 『うん!』 傘は、雨雲に覆われてもその中で光を届けている太陽のような明るい笑顔で私に言った。 私は大切な、そして大好きな傘と共に、喜びの雨の降る中を歩いていった。
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