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「なぁ、キタガワ。今度、ホノカちゃんここに呼んでくれる?」
ある週末、俺はキタガワにそう切り出した。
「へ、ホノカっすか?なんで?
あっ!あーっ!にーさん?もしや?もしかすると?
ホノカにーーー」
「例の、味見してもらいたいんだよ」
「ホノカだけに、ホの…
アレッ?そっち?
なあんだぁー。にーさんに春が来たのかと思ったのに。ちっ」
コノヤロ。さりげに舌打ちなんかしやがって。あと、いちいち言い回しが古過ぎ。
「ハイ、ハイっと…にーさん、これから行きますって」
「はやっ」
「ちょうど、食べに行こうと思ってたらしいす。
ニシシ。にーさん、オレにも食べさせてくれるっすよね?」
「どーすっかなぁ。オマエ、からかってばっかだし。うっさいし」
「あーん。にーさん、ヒドイ。こんなに頑張ってるのに」
キタガワがふざけて、俺の腕に女みたいに絡み付いたところで、引き戸がガラッと開いた。
ホノカが入口で固まってる。
「…おじゃましました」
無表情のまま後ずさりをして、引き戸を静かに閉じようとしたので、
「わー!わー!わー!ちがう、ちがうからー!」
必死でホノカを引き留めた。
「ったく!オマエのせいで、ホノカちゃん引いちゃったじゃんかよ。カンベンしてくれよ」
ブツブツ文句を言うと、キタガワはうひゃひゃと笑い、ホノカは顔を肩の方にくっつけて、くっくっとこらえ笑いをしていた。
「来てくれてありがと。
あの、この前の偶然出来たラーメンさ、店で出したいと思ってて…
あれから練習重ねて…アレと同じに出来たか、確かめて貰いたいんだけど」
俺の話を聞いて、ホノカはこくりと頷いた。
ホノカと、ついでにキタガワの前にも、ごとりとどんぶりを置いた。
「いただきまーっす!」
「いただきます」
ホノカとキタガワが同時に言った。
ズルッ、ズルッ、ズルッ。
二人が奏でる軽快なリズムを聞きながら、俺はドキドキしていた。同じに出来ただろうか?
「うん…うん…あは、オイシイ…」
ホノカの、頬に赤みが差して、少年みたいにくしゃっと笑う顔を目の当たりにして、俺の決心はついた。
キタガワのうるさい賛辞は、一切耳に入らなかった。
「すごいです、て…ハジメ、さん」
「うん。くくっ、まだ、店長って言う?(笑)」
ホノカのぎこちなさが、俺には新鮮で、心地いい。
…
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