〈第1歩〉

3/4
53人が本棚に入れています
本棚に追加
/67ページ
『ーーー今の季節にピッタリの楽曲でしたね、□□で【XXX】でした。 さて、ここでスペシャルゲストです。おなじみ、イッサ先生』 曲が明けて、パーソナリティーのタツミくんが紹介したのは、彼の恋人の勇実(いさみ)。 『そして、【きたいわ屋】のアルバイトのキタガワくんです』 湯切りをしていた麺を、危うく落としそうになった。あのヤロー、ナニついでに出演してんだよ。 「すいませーん。冷やし中華、ふたつお願いします」 「あっはい。冷やし中華2。少々お待ち下さいねー」 お客の注文を受けながら、俺はラジオに耳を傾ける。 『タツミくん、お疲れさま。 ちょうどそこで、キタガワくんに会ったんだよ。入って貰ってもよかったんだよね?』 『もちろん。キタガワくん、初めまして。後藤(ごとう)樹深(たつみ)です。 店長のハジメさんには、すっかりお世話になってました。 イッサからも、話はよく聞いてます(笑)』 『うわぁ、まじっすか?あ、っていうか、今オンエア中っすか? え、え、え、オレ、居ていいんっすかね!?』 『ヘーキヘーキ。少しお喋りしていきなよ。ねぇ、タツミくん?』 『うん。キタガワくんが、よければ。味噌ラーメンの説明、してくれませんか?』 『りょーかいっす!うひょーっ、光栄っす!』 やべぇ。タツミくんも勇実も自由過ぎ。キタガワが図に乗る。 『えーっと。【きたいわ屋】の看板メニューは醤油なんすけど。 今日お持ちした味噌もね、じわじわと支持が集まってんすよ。 はい、お待ちどおさま。味噌おふたつです』 『わぁい。あ、キタガワくん、ラップ掛けるの上手だね。懐かしいなぁ。私もよくやった(笑)』 『ははは。にーさんにね、勇実くらい上手くやれ!ってハッパかけられたっす。猛練習したっすよ』 『あ、俺達だけごはんで、キタガワくんに申し訳ないな…イッサ、三等分にするけどいい?』 『いえいえ!そんな、おかまいなく!そんなんされたら、にーさんにこっぴどく叱られるっす! にーさんのまかないが出なくなるかも!?それはオレ、泣いちゃうっす!』 『そう?なんか、ごめんね』 『あははぁ。キタガワくんも、ハジメちゃんのまかない好きなんだね。私もねぇ、しょっちゅう食べさせて貰ってたなぁ』 昔に思いを馳せる、勇実の声。俺もふっと昔に引き戻されそうになったが、 「すみませーん、醤油ラーメン、お願いします」 「あっハイ、醤油ね。ありがとうございます」 ひっきりなしに注文が飛ぶから、そんなヒマねぇ。 ちきしょー、キタガワぁ、早く帰ってこい。 …
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!