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行く場所を決めるのは大体ネットか、数少ない同じ趣味の人間からの話か、後はどの辺と決めてバイクで走りながら怪しい道を選んで進む。 たまに、ああ、この辺に廃墟がありそうだとわかるのだ。 そもそも、実際に部外者が立ち入れるのは人気のない場所だけなのでただひたすら人の居ない場所を目指して進んでいく。 今日は特にアテも無く山道を走っている。 春の風は暖かく、青空はターゴイズブルー色で雲一つない。 ふと目に入った林道にハンドルを切る。 舗装されてはいるものの、ほとんど誰も通らないのだろう。木の葉や小枝がかなり落ちている。 これは、と思う。 廃墟っていうやつは大体同じ様なところにあるのだ。 道を奥に奥に進むと集落に出る。 正しくは集落だったものだろう。 ここにはもう人気が無い。 ただ、残念なのは数件を残して集落のほぼすべての建物が綺麗に片づけられた後だということだ。 バイクを路肩にとめて、歩き回る。 目に入ったのは一本の見事な桜の木だった。 薄紅色の花をつけて咲き誇る桜は儚げで美しい。 今年、この姿を見るのは多分俺だけだろう。 桜は人の手で植えられた筈のソメイヨシノだった。 ここに何があったのか気になって周りを確認する。 残っていた、基礎の跡、それから桜の木の横にある、小さな丸い跡。 ここは恐らく、郵便局だった場所だ。 小さな敷地に小さな郵便局とそれから桜の木。何も無くなってしまっても残された桜の木の樹皮は傷みはじめている。 人と共にしか生きられないこの植物はあと何度もは花を咲かせられないだろう。 桜も家も、人の手が入らなくなったら、後は朽ちていくだけだ。 その朽ちていく様を眺めるのが好きで、寂しくて侘しいけれど、それがないと生きていけない位、無性に崩れゆく生活が見たいのだ。 風が吹き抜ける。 桜の花びらが風に舞う。 ひらり、ひらりと花びらが回転しながら、地面に落ちる。 それをみて無性に泣きたくなって、それから帰ってあいつの顔を見たくなった。 「帰るか。」 バイクにまたがり、最後に桜の木を振り返る。 また、来年も来てみたい。そう思う美しさだった。 了
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