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「僕も飼い主も裏の存在。最初から存在していないんだよ。それでさぁ、課長さん?僕の新しい飼い主になってね。袖触れ合うも他生の縁って言うでしょ?」
マジか。“最初から存在していない”というのは、潜入捜査に使う警察によくある。
いうなれば、この子はお古。躾けなくていい、便利な部下。ただし、自分の犬だということは隠さないといけない。そして、犬の衣食住は飼い主が責任を持つ。
俺が断れば、この子は生きていけない。存在していないのだから自分を証明できず、就労不可。家に住むこともできないし、食うにも困る。死だけが待っている。
気づいたら俺は、遅い晩飯用に買っていたおにぎりを少年に差し出していた。
「それがお前のためになるなら。俺はあの時お前に助けてもらい、昇格までさせてもらった礼がしたい。ありがとう。えーと、名前は?」
「名前はない。元々、ない。好きに呼んでいいよ」
「じゃあ…………みなみ、みねぎし……みな、ぎ……ミナギ。今からお前の名前はミナギだ。これからよろしく」
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