番犬

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 ミナギはこの世に存在しない。病院で治療を受けられない。  痛感する、ミナギが警察の犬であることを。もどかしい。笑うな。お前は、笑うな。腹が立つから。  斬られた俺の右腕に伸ばされたミナギの手を、つかんだ。引き寄せ抱きしめる。きつく、きつく、ミナギの背中が仰け反るほど強く。 「あ、はっ……いた、いよ。お、怒ってんの?どうして、っ…………ねぇ……泣いてるの?」 「お前が笑うからだ。痛いくせに、辛いくせに、苦しいくせに、怖かったくせに、笑うな。泣け」 「えー、何それ?大丈夫だよ。僕、慣れてるから」 「なら、俺のために泣け。最後の命令だ。クビだ、ミナギとしていろ。もう決めた。お前は今から元警察の犬、俺の家族だ」 「何の冗談?やめてよ、クビ?家族なんて……。や、だ。嫌だっ、家族なんか!お願い、何でもするから俺を犬に――!」  気づいたんだ。俺が、ミナギに抱いている想いに。  だから、ミナギが本気で焦って叫んでも。俺はもう、この腕を離さない。叫び暴れる体を押さえつけ、頭を撫でる。  目を閉じ、深く息を吸い込むと雨の匂い。ミナギの匂いを肺いっぱいに感じながら俺は、耳元でささやいた。 「好きだ、ミナギ。愛している」
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