茜色の果てに「さよなら」を

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   ある日、僕の友人は夕日の照らす放課後の教室に居残って、ぼんやりと黒板を眺めていた。どうやら、居残りをさせられているようだ。 「あ、神野原。ちょっと宿題写させてくれよ」 神野原というのは僕の名前だ。ちょっと狙い過ぎかとも思ったが意外と馴染んでいる。 「ちゃんと自分でやるんだな」 僕は断固として断った。これは僕の優しさだ。 「相変わらず固えなあ」 彼は渋々引き下がると、また黒板を睨むように目を細めた。 「神野原ってよお。なんでも知ってるみたいな顔してるよな」 彼は突如そういった。それはごく自然に。危うく聞き逃してしまいそうなほどだった。 「そうか? 僕は勉強するまで、万有引力を見つけた人間なんか知らなかったよ」 「はっ。お前アインシュタインも知らなかったのかよ。真面目な顔したアホかお前?」 彼はケタケタと笑った。なんだかとても申し訳ない気持ちになった僕は、無粋な訂正はよしておこうとそっと心にしまい込んだ。
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