茜色の果てに「さよなら」を

6/8
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「だからさ、これからは逆に真面目にコツコツ勉強やってみることにした! 今決めた! けど他にもやんなくちゃいけないことは沢山あってさ」 彼は段々と目を輝かせ始める。見るものすべてが新しい子供のように、楽しそうにしている。 「君は、きっといつか見つけるだろうね」 僕は滔々と語る彼の言葉を遮らないように、ポツリと零した。彼は気付くそぶりもなく話し続けている。 「そうなると人生って短いんだよな。やりたいことはこんなにもあるのに」 彼はその言葉で締めくくった。 「君はさ。勉強なんて嫌いなのかと思っていたよ」 僕はおもむろにそういった。事実彼のことはそう認識していたし、むしろ今回のことは僕にとって予想外の連続だった。 「うーん。今まではやらなかっただけなんだよな。でもやってみたら楽しいってこともあったし。なんて言うんだろうな。まあやっぱり色んな事を知れるのは楽しいじゃんか」 彼はケロっとしてそう言った。 「どうしてそう思うんだい?」 「簡単な事だろ。色々知ってるってことはその分やれることも多いんだぜ。やれることが多いってことは、もっと色んな事を知れるって事だろ? そんな事を繰り返していったらさ、多分いつか届くと思うんだ」 彼は決して冗談なんかじゃなく、大真面目でそう言った。もうそこには虚像は見えなかった。 「届くってのは、『自由』にって事でいいんだよな?」 「うん、ま、そうなんだけどさ」 彼にしては珍しくお茶を濁すような返答だった。 「俺が本当に欲しいのって『自由』の先にあると思うんだ」 「君は随分難しい事を言うね」 僕はすっかり感心してしまった。 「なんだろう。うまく言えないんだよ。今はまだ、な。けどきっと、きっと俺が探してる生き方はそれなんだ」 彼は遥かな遠景に目をこらすような語りを、静かなため息とともに終えた。その顔はどこか達成感に満ちていて、それでなお野心に満ちていた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!