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「君みたいな人間を、僕はずっと待っている」
僕は彼の熱意に当てられ高揚したからか、つい口走った。彼は不思議そうに僕の顔を見るなり言った。
「待っている、ってなんだよ」
僕たちは笑いあった。ケラケラと心地よい風のような笑い声が教室を流れ出て、いったいどこへ向かうのだろう。「なんでも知ってるような顔」をした僕はそんなことさえ知らないで、ただあの雲の群れに合流してゆくんだろうとか、曖昧な妄想を膨らませた。そして雲の上から見る夕焼けに負けず劣らず美しい茜色に心を染められて、言いようもなく胸が苦しくなった。
ああこれがきっと、人間というものなのだ。
等身大に立って見てようやくわかった醜悪さの孕んだ美が、僕の胸を打つ。
「君はきっと、きっと辿り着く。君は僕の言葉なんかなくったって歩みを止めたりはしないんだろう。それでもあえて言わせて欲しい。君は必ず、君の追い求めるものを手に入れることができる。だから僕は……」
これが僕に出来る精一杯だ。きっと君が僕の元にたどり着いた時、君は盛大に、ケラケラと笑い飛ばすだろう。君たちが創造して思い描いているほど、僕たちが出来ることなんて無いんだぜ。そんな僕を見て君は大いに笑えばいい。僕はそれを待つ。この果てしない命の楽しみとして。
「だから僕は、君がやってくるのを楽しみに待ってるからさ。絶対来いよ。泰丈然 啓志(タイジョウゼン ケイシ)」
彼は賢いから、言葉にしなくても分かってくれるだろう。だから、敢えて言わない。
僕たちはまたいずれ会うことになるだろう?
なら、要らないよな。
悠久を生きる僕と、限られた命で『自由』の先にあるものに肉薄しようとする君、と言う二人の間にそんな言葉は必要ない。
僕にとってはあっという間の人間の一生のうちに、君とはまた会うからね。
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