72時間

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72時間

 体内時計、というものがある。  ざっくりと言ってしまえば、夜には眠くなり、昼にはお腹が空いてくる、というような1日の身体機能のリズムのことだ。  僕は生まれつきその体内時計が正確だった。  正確すぎた。  僕の身体は日本時刻の午後5時に全機能を休止させる。  つまり眠りにつく。  そして12時間後、翌日の午前5時に目覚めるのだ。  こんな変わった体質だが、今まで特段困ったことはなかった。  学校には説明をして(この体質のことは信じてもらえないので、病気ということになっている)、少し早く早退させてもらえば授業は問題なく受けることができたし、起きている12時間は一瞬も眠くなることはないのでフルに楽しむことができた。夜行バスなどの寝苦しい状況でもぐっすりと眠れるし、寝坊なんて心配もない。  強いて短所を挙げるとしたら、友達と花火大会や初詣に行けないことくらいだ。  他の人とは少し変わってはいたが、このせいで自分の人生は悲劇だと嘆くほど絶望しているわけではなかった。  しかし、だ。  僕は高校生になって、この体質の重大な欠点に気付いてしまったのだ。  というのも。  僕は体内時計の影響で毎日学校を早退する日々だった。  つまり知らなかったのだ。  『放課後』というスペシャルタイムを!  放課後。  それは授業という鎖から解き放たれた時間であり。  青春、友情、そして恋愛の舞台。  青春小説にはまって読み漁り妄想に耽っていた高校二年生の秋、僕はその物語に登場することはできないのだと悟ってしまった。  ちょうどその頃だった。あの七不思議を耳にしたのは。  そして、見つけることができた。  これは運命だと思った。  そして運命だと思って。  僕はその場で彼女に愛の告白をしてしまったのだ。  今思えば、恥ずかしい。完全に青春を拗らせてしまっていた。  ちょっと考えさせてほしい、と彼女は言った。そりゃそうだ、初対面でいきなり付き合ってほしいと言われても困るだろう。  しかしその3日後。  なんと彼女はOKの返事をくれたのだ。 『よくわからないけれど、よくわからないからこそ、これからあなたのことを知っていきたいと思った』  とのことだ。  正直よくわからなかった。  でも、嬉しかった。      
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