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「薫――部屋へ戻れ」
征司は僕を抱きとめたまま
思いのほか冷静な声音で薫に命じた。
しがみついた征司の肩先から見えた薫は
やはり父に似た顔をして。
「早く――薬でも飲んで早く寝ちまえ」
僕に視線をやったままニヤリと口角を上げて
静かに自分の部屋へと去ってゆく。
「それで――?」
「え?」
一糸まとわぬ姿で残された僕は
征司の腕に抱かれたまま
「あいつの味も覚えたって言うのか?」
「ち、違いますよっ……」
あらぬ疑いを抱かれてぶんぶんと首を横に振る。
「じゃあなんで裸なんだ?」
「それは……」
どちらか夜這いに来たかと思って――。
本当の事も口が裂けても言えない。
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