episode252 お父様の亡霊

24/30
前へ
/30ページ
次へ
まだ僕の手首を掴んだまま言った。 「おいで」 九条さんは複雑な顔をして僕の腕を引く。 身体は九条さんの方へ傾いているのに。 僕はどうしても 唯一残った征司の手を振り払うことができない。 「君には詫びたい——彼が僕を愛してしまった事をね」 九条さんはそれを察して 僕の手首を握っている征司の手をほどく。 自由になった僕は――。 僕はどうすれば良かったか。 「……部屋に戻ります」 「和樹」 「ダメ。やっぱり僕は……」 シャツを羽織り立ち尽くす2人から遠ざかる。 「今夜はもう寝るの。それで明日が来たら——」 「明日が来たらこの呪いも解けるってのか?」 そう言って先に背を向けたのは征司だった。 「ごめん、おやすみなさい……」 僕は唇だけ動かして九条さんに投げキスを送る。 「ハァ……」 部屋に戻ると今度はわき目も降らずベッドに潜りこんだ。 薫の事も気がかりだった。 しかし父の亡霊より恐ろしいものを目の当たりにして 今夜はすっかりまいっていた。 明日が来れば何かが変わるかもしれない――。 今はただそう信じて瞳を閉じた。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加