社員力

1/4
前へ
/4ページ
次へ

社員力

『我が社にとって1番の財産は、顧客や商品ではなく、会社のために日々奮闘してくれる全社員である』  立派な社訓が掲げられているのは「(株)黒川総合開発」の1階エントランスである。  社長の黒川は、1代でこの会社を築き、社員数も60人を超える企業に育てあげた。業績も同業他社が苦労する中でも赤字を出さずに経営を続けているので、書面上では安定した優良企業であるように窺える。  しかし、社員の中ではどうやら不満の声の方が多いようだ。その原因は他でもない、黒川の性格にあった。  1代で築き上げた自信からか、重役の意見にも耳を貸さない典型的なワンマン社長なのだ。 ワークライフバランス重視な今日に、まだ前時代的な体育会系バリバリな経営スタイルを貫き、社員にもそのように教育している。 「成功者に休みなんてない、他の奴らが眠っている間にも仕事に精を出すんだ!」が彼の口癖である。エントランスの立派な社訓も、黒川が自ら筆を取り、お世辞にも上手とは言えない書道の腕前を披露した。 彼は毎朝、出社したらその社訓をうっとりと眺めるのだそうだ。 しかし、それだけなら社員たちも耐えれた、仕事さえこなして時間を作れば社内でも息抜きの時間は充分にあった。 問題は、最近導入された迷惑極まりないロボットだ。 黒川が懇意にしている商社マンが持ってきたという最新型の「浮遊型社内生産性管理システム」らしい。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加