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日曜日の午後3時。
せっかくの日曜なのに雨…ある男友達はそう言っていたけど、私はスキップをするような気分で雨の降る日曜にしか開店しない、私だけのとっておきの喫茶店に足を運ぶ。
小ぶりの雨の中、傘をささずに家を出る。
野暮ったい灰色の空も、ジメジメとした気温も、今の私には全てが綺麗に見える。
ぱっと見カフェには見えない普通の一軒家の前で足を止めて、木目調のドアの前に立って深呼吸する。
「すいませーん」
私が扉を開けると、カランカランと心地よい音がこじんまりとした雰囲気の良い店内に響いた。
「いらっしゃい。彩芽ちゃん」
店長さんはまだ若い男の人で、私の友達によく似ている。
確か、兄弟だと言っていた。
「相変わらずお客さん少ないね」
私がそう言うと店長さんは誤魔化すように笑って、私にオレンジジュースを出した。
少し長い沈黙が気まずい。
「…店長さんってさー彼女とかいるの?」
景気付けとばかりにオレンジジュースを一気に飲み干して、何となくを装い聞いてみた。
「いるよ。こんど結婚するんだ」
「そ、そっか…店長さんって結構モテそうだもんね」
「そうでもないんだけどなぁ」
幸せそうに頭をかく店長さんを見たくなくて窓に目をやった。
小ぶりだった雨はいつのまにか止んでいた。
「あーあ雨止んじゃった。帰らないと」
「うん。また来てね」
「店長さん」
ドアノブに置こうとした手を下ろして、店長さんに背を向けたまま声をかけた。
「もし、店長さんに彼女が居なかったら、
もし、私が店長さんが好きだって言ったら
何て答えた?」
「…彩芽ちゃんがどんな答えを望んでいるのかは分からないけど、この店は彩芽ちゃんが来る午前3時にしか開店してないよ」
何も言わずに店を飛び出た。
雲が晴れて、青い空に水を吸って重い靴。
全てが私をイラつかせた。
少し走った所でお金も払ってない事に気がついた。
「彩芽?何してんの」
店長さんによく似た声に名前を呼ばれる。
「翔…」
「兄貴にフラれたとか?」
こんな時だけ変に勘がいい。
「あんたはさ、私が好きだって言ったらどうする?」
「兄貴のお下がりなんてお断りだな」
間髪入れずにそう答えられた。
「そっかそっか…うん、そうだよね!何か、スッキリした。ありがと、きっぱり断ってくれて」
店長さんは、優しいから私を完全に突っぱねたりなんてしないから、少し期待もあってモヤモヤしていたキモチが、店長さんに似た顔と声で断られて諦めがついた。
「これ、ジュース代。店長さんに渡しといて」
そう言って翔に背中を向けて帰ろうとした、その時だった。
「待てよ」
ぐっと引き寄せられて、私が言葉を発する前に唇を重ねられた。「兄貴のお下がりなんていらねー。俺だけの彩芽になれって言ってんだよ!」「えっ…」6月某日、午後3時。今日のおやつは、失恋という苦いチョコレートと、同級生からの告白という私には甘すぎる綿菓子だった。
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