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「私は…こういう者です」
男性は2枚の名刺を僕らに出した。彼の名はジョンストン。フリーのジャーナリストのようだ。
心の中でため息をついた。わが軍はマスコミ関係者に覚えがよくない。ちょっとした不祥事でもハチの巣をつつく様に叩かれるのだ。
かといって嫌な顔をして店を後にする訳にもいかない。身分を偽るのもどうなのだろう。目の前の記者の扱いに困っていると、彼は落ち着いた声で言った。
「ご安心ください。私は中立的な記事を書くように心がけています」
『…詳しいことは言えませんが、一応は軍人です』
「なるほど」
ジョンストンは手帳を片手に話を切り出した。
「実は…ある軍艦に、対消滅誘導弾が配備されたという情報を得ました」
僕の脳裏に先日の光景が浮かんだ。
透けたコンテナと灰色のささやき声。あの時確かに、僕の脳裏には対消滅という言葉が浮かんでいた。
対消滅とは、粒子と反粒子が衝突し、そのエネルギーを他の粒子に変換することだ。
あの形状のミサイルなら1キログラムは搭載できるだろう。その威力はツァーリボンバーに匹敵し、発射されれば、およそ10万人が暮らすシリウス宇宙基地でさえ消し飛ばされてしまう。
核との違いは、宇宙空間でも高い破壊力を発揮する点だろう。
ジョンストンは身を乗り出した。
「大量破壊兵器の傘に収まる方が安全、という意見もありますが…あなた方はどう思われますか?」
僕は言葉を詰まらせた。大量破壊兵器の配備には賛成しかねる。しかし、僕は武器を持つ側の人間でもある。
それから数分後、雨は上がり僕らは喫茶店の前に立った。
『今日はありがとうございました』
「こちらこそ、貴重な意見を頂き…ありがとうございます」
ジョンストンと別れると、僕とエブリは基地に向かって歩みを進めた。
「難しい話だったね」
『そうだね』
エブリは日傘をさし僕をその中に入れてくれた。
「どうして人間って…あんな兵器を手にしようと思うのかな?」
僕はエブリの傘を見た。日傘の布の部分は日の光防ぎ、骨組みが布を支え、骨組みもまたシャフトに支えられている。
『僕の国で人って、人の間って書くんだ。強い武器を持っていると、それだけで注目される。自分を飾り立てるためにより強力な武器を手にしようとする人もいるけど、多くの人は社会の中でバランスを取って生きていきたいと考えていると思う』
僕は傘を見た。
『傘だって…いろいろなパーツがあるからその形を維持できる訳だしね』
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