Episode2 鯨の骨は響く

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「帰る」  背をむけて歩きだす。  足もとは暗く、折れた鉄骨に引っ掛からないように気をつけて進む。彼は追い掛けてくることなく、声だけが俺の背に触れた。 「僕はここにいるつもりだよ。夏が終わるまで」  錆びた鉄が声を拡散するのか、澄んだ声が廃墟に反響する。  弦の奏でが海の底から響いてくるような、奇矯な音の波長だ。  ふと思い至る。  彼の声は、鯨に似ている。52ヘルツの。  どこまでも響くのに、誰にも響かない。海の端から端までを彷徨っても、その鯨が同族の群に逢うことはない。彼だけが、他とは違う声で叫んでいるから。俺はその声を拾ってしまった。だからたぶん。 「君を歓迎する」  またここにくるのだろうと思った。
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