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週末、私は母と新しい傘を買いに行くことになった。その日の朝、母は私に言った。
「傘、干した後で閉じたときはちゃんとたためたよ。」
希望の光がともった。また傘さんと一緒に過ごせるかもしれない。
傘立てを見に行くと、元通りにスリムになった傘さんがちょんと立っていた。
だが、開けると 1 本の骨は曲がっているし、なぜか2本の骨がクロスしてしまっているところもある。
「だめだ。やっぱり壊れている。」
落胆した私はしぶしぶ新しい傘を買いに店へと向かった。
向かったのは傘さんを買ったのと同じ店。なんと傘さんと同じ傘も店頭に並んでいる。
「あ、これ前のと同じ傘だね。この形は壊れるからやめとき。」
母も気づいたようだ。私もまたこの傘を買うつもりはない。壊れるからという理由ではない。
これは傘さんと同じ形をしているが、傘さんではない。いわばクローンのようなものだ。私は傘さんの見た目ではなく、傘さん本体のことが好きだったのだ。代わりなんていらない。
結局選んだのは黒い猫と音符の柄の入った傘だ。名前は「ぬこ」に決めた。これからはぬことともに雨の日を過ごしていきたい。
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