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ポツポツポツ…
外からは控えめな雨の音が聞こえる。
靴ひもを結びドアを開けると、薄く細い線のような雨がひっそりと降っている。
傘をさして早足気味に通り過ぎていくサラリーマン。ジャージを着て傘もささずに走っていく中学生たち。
「お母さん、今日昼からも雨降る?」
傘を持っていくべきかどうか否か判断しかねた私は振り返って母に尋ねる。大きな傘は持ち歩くだけで面倒なのでできれば折り畳み傘にしておきたいところだ。
「今日は一日中雨って天気予報で言ってたよ。」
「そっか、じゃあおっきいほうの傘持ってこ。」
玄関横の傘立てから自分の傘を探し出す。
「あれ?」
いつもはきれいにたたんであるはずの傘がなぜかぐちゃぐちゃっとたたまれていた。
前回傘を干してくれた父か母がたたむのに失敗したのだろうか。
違和感を覚えながらも私は傘を開き、外へ出た。
「行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
このときの何気ない行動がのちに大きな悲劇を生むということに私はまだ気が付いていなかった。
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