§2

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    §2

つい、うふふと笑って導師を見下ろすと、導師の真顔が俺を見上げた。 「そこから動くなよ、じっとしてろ」 「うん」 そう言ってから、導師は頭を動かさず、視線だけで辺りをくまなく観察していて、俺は内心でものすごくうきうきしながら、導師の次の指示を待っている。 「よし、ちょっとだけ動け」 両手の平をぱっと地面につけると、そこから数匹の虫が一斉に飛び出した。 そのうちの一匹を、導師はお口でお見事キャッチ。 「うまい!」 むしゃむしゃと、捕まえた大きなバッタを食べる導師。 「お前もやってみろ」 「はい?」 「うまいぞ」 「……」 そんなことを言われても、俺に出来るわけがない。 いやいや、バッタを捕まえることは出来るだろうけど、それを食べろと言われても、ちょっとしんどいかも。 「うん、無理」 また飛び出した一匹の虫を、導師はぱっと前足ではたいて、たたき落とした。 それを口にくわえて、美味しそうにほおばる。 「自分で食うものくらい、自分で取れないでどうする。修行とは、まずそこからだ」 「虫なんて、食べないよ」 「食べられないのか?」 俺は、大きく首を横に振った。 「人間は、虫を食べないわけじゃないけど、あんまり食べない」 「なんだそれ」 「食べないわけじゃないけど、食べる人もいるし、食べない人もいる」 「どっちだ」 「どっちなんだろ」 「私は、お前のことを聞いているんだ」 導師は草むらの陰から、じっと俺を見上げる。 「お前が虫を食う奴なら、私についてこい。食わない奴なら、そこで黙って見ていろ」 がさごそと音を立てて、導師は草むらの中へと消えていく。 言われたことをしばらく考えてみたけど、少なくとも俺は今までに虫を食べたことはないし、これからは……どうなるのか分からないけど、とりあえず食べる予定は今のところないから、今は黙って見ておこう。 時々思い出したように飛び跳ねる、導師の焦茶色の背中を見ながら、俺はゆっくりと後ずさりして、土手の上に腰掛けた。 高みの見物。 だけど、これじゃ俺の修行にはなってないような気がする。 「あの逃げた猫を、捕まえに来たんですか?」 その声に振り返ると、小学校四、五年生くらいの、すごくお上品で高そうな服をきた、賢そうな少年が立っていた。 「よかったら、僕も手伝いますよ」 少年は、にこっと笑って腰を下ろす。 「僕、動物、大好きなんです」 そうして、あれこれ一人でずっとおしゃべりを続けながら、ぶちぶちとその手に触れる草をかったぱしから抜いていく。 「猫は、警戒心が強い生き物ですからね、こちらから近寄らずに、寄ってくるのを待つ方がいいんです。あの猫の好きなおもちゃとか、おやつは持ってますか?」 首を横に振る。
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