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「いらっしゃいませ、こんばんは」 いつも通り爽やかな声で、俺は選ばれし客人へと挨拶をする。 ここは、六本木にある一流の者のみが入ることを許される高級カフェ。 俺、高遠颯斗(たかとおはやと)は時給が学生にしては超高額すぎるこのカフェで働く、平凡で貧乏な大学1年生。 大学生になり、時間に余裕が出来た俺は少しでも多くの学費を稼ぐために、現在はディナータイムのシフトに入っている。 「あ、君」 今し方入店してきた、いかにも育ちの良さそうな好青年に俺は声を掛けられる。 最近、良く見掛ける新入りの常連客だ。 見たところ、俺とそんなに年齢は変わらない。その若さで、この高級カフェを訪れる資格があるなんて、一体どんな肩書きのある男なんだろう。 ふとそう思った。 「私、ですか?」 「そうだ。今夜は、君を指名しても良いかな?」 一介のバイトである俺を指名するなんて、超人気ハリウッド俳優である(りゅう)()(さき)翔琉(かける)以外にも物好きがいるもんだな、と思った。 「はぁ、私で良ければ……」 接客のプロである正社員の店員たちが沢山いる中、何故1番下っ端の俺を選ぶのか疑問に感じつつ、今後上客となるであろうこの若者の提案を2つ返事で引き受ける。 男はそのまま窓際の1番奥の席へと進み、迷いなくその席へと座った。 「あ……」 後を追った俺は、思わず小さく声を上げてしまう。 「どうかされましたか?」 その声を聞いた男は、端正な顔を俺に向けた。 その顔は、自信と気品に満ち溢れている絶対王者にしかできない表情だった。 この表情ができる男を、俺はもう1人身近で知っている。 このカフェの常連で、まさにこの席が定位置である男。 そして、俺のことが「好きだ」と何かにつけて告白してくる男――。 そう、それは今をときめく人気ハリウッド俳優龍ヶ崎翔琉のことだ。
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