ある少年の夢

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お腹が膨れて健やかに眠りに落ちたジャンの枕元で、カイザーは少年の寝顔を愛おしそうに見つめていた。 『我が友よ。その名に込められた本当の意味を、お前は知らぬのだな』 烏の間でだけ脈々と受け継がれた話を、誰もジャンに話していないのだ。 『友よ、その名は、私がお前の唯一無二の烏と言う意味なのだ。私はどうしても、その名で呼ばれたかった。すまぬ、お前に黙って小細工をしてしまったよ』 カイザーはジャンの父親の性格を熟知していた。彼ならば、初代について書かれた書物を見ればこの名を推してくれると思ったのだ。 この館にある本を読み尽くしたカイザーは、何処に目当ての書物があるか知っていたし、父親が見つけるように誘導するのは簡単だった。 『友よ、私の唯一無二の相棒。きっと、お前の期待全てに応えてみせよう』 平和に眠るこの少年が、唯一無二の相棒を携えて土の国の英雄になるのは、まだ遠い未来のお話。
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