心に翼を

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心に翼を

時を告げる七つの鐘が鳴り終われば、試験会場の受付は締め切られてしまう。七つ目の鐘が鳴る直前、一人の少年が試験の受付に飛び込んできた。 「すみません、試験番号565番です!」 「急ぎなさい。君で最後だ」 「はい!」 よほど遠方から必死で来た田舎者だろうと、受付の者は思った。駆け込んだ少年の胸に秘められた強い志しなど、目には見えないのだから。 受付の案内を受けた少年は、試験会場へと恐る恐る進む。一瞬の油断もならない。少年が、実は女だとバレたら「試験資格無し」の烙印を押されて追い出されてしまう……。 これは少年のふりをした少女と、彼女の弟の、最後の挑戦だった。 ーー開始時間ギリギリに、すべりこむ。 少女が胸に抱くのは、弟の遺した最後の生きた証。彼が自分の名前で申し込んでくれた、試験資格認定書だ。 ーー受付した全員の身元を調べるのは、上から順番だから、これで試験を終えるまで時間が稼げる。 溢れそうな涙は、必死で飲み込む。 ーー姉さんなら必ず、首席を取れるよ。だって、僕の自慢の姉さんだもの。 それは、弟が歩みたくても歩めなかった道。 ーーそうなれば、絶対に姉さんの実力を惜しんでくれる人がいるはずだ。その人を、利用するんだ。ためらっては駄目だよ。手段は問わないで。僕は……。 命が尽きる寸前なのに、弟はいつも通りに笑った。 ーー僕は、姉さんが羽ばたいていくのを見守っているから。ずっとずっと、見守っているから。大好きだよ、姉さん。僕が生きた証を、全部姉さんにあげる。 こんな手段を取らなければ、試験資格を得る事すら出来ない。 少女……グレイスは、滲んだ涙を拭って真っ直ぐに歩き始めた。
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