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あるホテルのこと
夏合宿が終わっても夏休みは残っていて、休み明けのテストの勉強や宿題を進めると同時に、テーマ発表の資料の収集に集中していた。最近は都市伝説が多くの人に伝わるよりも法螺話としてネット上に上がる話の方が多そうで、何処からが都市伝説をすべきか悩ましい。
夏合宿以降、美羽は土屋さんに力の制御などの訓練をして持っているそうだ。
より多くの物を見えるようになって、少しずつだけど細やかな声や音も聞こえるようになって来たらしい。まだ土屋さんには適わないけど、頑張れているよと昨日の電話で教えてもらった。
美羽が成長していく度に、置いて行かれるような焦りと理不尽な苛立ちを感じるようになった。
成長できないのは私が自分を成長させようとしないから、頑張る姿に苛立つのは自分が頑張らないで楽な方へ流れようとしているのを知っているから。
自分の意見もなくて流されて遊んでいただけの人間には頑張る人がキラキラして羨ましくて、いつか視界に入れることも不快に感じるようになるんだろうなと思いつつ、美羽の話を聴いて嬉しくなっているのも事実だった。それでも、私だけ何も成長出来ていない現状に必要以上に焦っている気がしなくもない。
夏合宿のあと、何回か部室に言った。誰も居ないかと思っていたけど、叶先輩がいたり、成田さんがパソコンを触っていたりしていた。就活とか、論文とかで大変そうなのに、いつも構って貰える。
先日は、叶先輩にアイスをおごって貰った。
「何か、焦ってるね。ゆっくりやりな。高校生で大学のサークル入っている時点で回りとの違いはどうしても生まれるんだから」
アイスを奢って貰ったときに叶先輩に言われた言葉だ。それから、ポンポンと頭を撫でられて、先輩はそのまま自分の作業に戻っていった。
私は、ラムネ味のアイスを齧っていた。
自分の感情を持て余して、人に心配までしてもらって、高校生にもなって何をしてるんだろう。
夏休みが終わるまで、後一週間足らずとなった日の夜、美羽から連絡が来て、手伝いを頼まれた。家の蔵の中の古書を虫干ししたいのと、いくつか土屋さんに持っていきたいものがあるから一緒に探して欲しいのだという。
美羽の家の古書の虫干しは小さい頃から手伝っていてなれたもの。といっても小さい頃は本を蔵から出す時点で飽きて、二人で鬼ごっことかおままごとをしてた気がする。
毎年恒例のことだから、いつものように了解の返信をして、時間を確認する。やはり朝から始めるらしく、朝の八時集合になった。
過去に美羽のお母さんが午後やらやっても終わるのでは?と午後から始めたことがあったが、一日で終わらず、余計に疲れたようで、その年以降朝から始めることに完全に決定したみたい。
着る物と軍手をタンスの中から引っ張りだす。そして、ハタを気付いた、夏合宿以降、美羽と会っていないことに。
朝から天気が良くて日差しが強い、けど風が程よく吹いていて暑苦しいというわけではなかった。
差し入れ用に、スポドリを四本買って、ビニール袋をガサガサを揺らしながら美羽の家の前に着く。
黒塗りの門、そのから見える手入れがしっかりされた庭。夏合宿の時の庭に気付けたのは、小さい頃からこの庭を見ていたからかもしれない。
庭の奥には、普段の生活の場である母屋、その隣に小さ目ながらもしっかりとした蔵がある。
門についているインターフォンを鳴らして到着を知らせると、インターフォンを確認する前に美羽が走ってきた。
「おはよう、今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。というか、ちゃんとインターフォン確認しよう、放送局の人とかだと困るでしょ? 」
いつものちゃんとした格好ではなく、作業着といってもいいような履き潰したズボン、くたびれたTシャツ、恐らく泥か何かで汚れたスニーカーという出で立ち。
「大丈夫、その時は追い出すから! ていうか、この前追い出したから! 」
親指を立てて晴れやかに笑う。どうやら放送局のあの二人組はまだ美羽を勧誘しているらしい。何というか、粘り強いというか、執念深い。
「いや、インターフォン確認しよう」
これしか言えなかったのは、私だけのせいではないと思う。
庭を通って、美羽のお母さんに挨拶してスポドリを渡しておく。冷蔵庫に入れておいてくれるから、休憩中にぬるくなったスポドリを飲まずに済む。
「昨日の内に、本は粗方出したんだけど、並べるのは無理だった」
「連絡くれたら、本出すのも手伝ったのに」
「途中で連絡すれば良かったなって後悔したよ。でも、瑞葉の勉強の時間減らしたらマズいかなって思っただけで」
「前回のテストはどの教科も六十点以上出しました。現代文と古典は八十点代入ったもん」
そうだねぇ、とニヤニヤ笑いながら言われる。余裕綽々か、オール九十点代を出した女の余裕かと思わなくもない。
ちょっとムッとしたので、頬をムニっと掴んで伸ばしておく。痛い痛いともにゃもにゃ言っている。
意地悪いうからだよ、と言って離すと、軽くごめん、ごめんと謝られる。いつものノリで楽しくなってきた。
蔵の前には簀の子が等間隔に並べてあって、門の出入り口には本が山積みにされている。山積みにされている本を一冊ずつ簀の子に立ててページとページの間に風を通す。どうにも痛みが酷いものは書き写したり、データ化して本自体は博物館などに寄贈する。
私達が小さい頃は、美羽のお母さんやお父さんも虫干しに参加していたけど、今は本の書き写しかデータ化の方に付きっきりになっている。始めてから、二、三年は美羽もどうするのは判断に困るこのもあったけど、最近じゃ慣れたもので、書き写しかデータ化するもの用に箱を用意するようになった。
それじゃあ始めますか、という美羽の言葉で、二人無言で作業が始まる。
一冊、一冊、丁寧に簀の子の上に立てて、風を通しす。埃などが付いているものは軽く払ってあげる。またに、教科書に載っていた気がする本が出てきて、中身に目を通して読めなくて元に戻す。
偶に、浮世絵の春画のようなものが混ざっているので、外から見えないように置き方を変える。
簀の子全部に並べても並びきらないので、一時間干したら次の本といった具合でローテーションを繰り返す。
意外と腰と膝にくることを知ったのは、ちゃんと手伝うようになった小五くらいかもしれない。
特別大変な作業をしているわけではないけど、どんどん息が切れていく。一度深呼吸して、美羽を見ると美羽も同じようで、互いに苦笑いしてから母屋の方に向かった。
母屋では昼食の準備がされていて、卵の焼くいい匂いがしていた。
休憩に戻ると、美羽のお母さんが、お昼まだ出来てないよ、と少し慌てた声を出していた。台所を覗くと、まだ茹でられていないお蕎麦の束と、細切りのキュウリ、天かす、のり、油揚げを醤油で煮たもの、それから卵が揃っていた。
「お父さんに今かまぼこ買ってきてもらってるから、お昼はもう少し待ってて。お父さんは待たなくていいけどかまぼこは欲しいでしょう?」
そう言いながら、美羽のお母さんは卵焼き用のフライパンで卵を巻いている。私達はスポドリを飲みながら、一緒に出してもらったクッキーを食べていた。
それから、昼食を頂き、虫干しを再開する。オカルト部に入ってから、今まで興味の薄かった占い関係にも興味が出てきた。あと少しで、本を並べ終わりそうなときに、易占の本や、星の位置が書いてある本を見つけた。
パラパラとめくってみる。書いている文字は読めなかったけど、挿絵などから、易占だな、とか、星の位置だな、という事が分かるようになった。古い本の様で、ページの端が破れていたり、虫に食われている箇所がある。
美羽にどうするのか確認しようと思って声をかける。見に来た美羽が、あった、と小さく呟いた。
「これ、土屋さんに持ってきてって言われた本。あるかどうか分からないけど探してみるとは言っていたんだよね。本当に蔵の中にあったんだ……」
驚いて、言葉少なになっている美羽は、他の本にも目を向ける。
恐らく天文学か陰陽道の本と易占の他にも、鬼の絵が表紙になっている本や、仏具が挿絵に入っている本などなど、好き人が見たら言い値で譲ってくれと言いそうなものが並んでいる。
それぞれの本を確認して、データ化か書き写すかを決めていく。土屋さんに持ってきて欲しいと言われた本については、データ化を急いで、本自体は土屋さんに見せるそうだ。
ありがとう、といって本の写真を土屋さんに送信する。いつも以上に楽しそうに口角を上げて、目がキラキラしている気がする。
楽しそうだなぁ、こんなに目がキラキラしていたのは、中学の最初の頃、放送局に入りたての頃以来かなと思い出す。
それから、なんで私はこんな風にキラキラできないんだろう、急にそんな気持ちに襲われる。嬉しいはずなのに、嬉しくない。そんな、醜い嫉妬が渦巻いている。
醜い嫉妬と焦りで、私自身が疲れ始めてしまった。
始業式後のテストは前回のテストとそれ程変わらない点数、前回よりも理科総合が少し上がった位で維持出来た。
でも、教室で先生が美羽の点数を褒めたり、放送局の子が教室前で美羽が出てくるのを待っていたり、美羽が土屋さんとの訓練に行った話をするたびに耳を塞ぎたくなる。なんでって叫びたくなる。
最近、自分の感情をコントロールできている気がしない。
うちのクラスの担任は何故か席替えをしたくないらしく、後期も前期と同じ出席番号順のままとなった。
「瑞葉ちゃん、後期もよろしくね。あと、公民教えて」
「桃ちゃんもよろしく。でも、今回の公民のテストで赤点なのはやばいと思う」
夏休み前よりも一段を日に焼けた桃ちゃんが、どうしようといいながら公民のテストを見せてくる。うん、私以上にやばいな。
「教科書、読んでる? とりあえず、教科書読んで、なんとなく理解してからノートなり、資料集なり読まないと分かんないと思うよ」
「なんもしてないから、赤点取って当然だよね! 」
「なんで、なにもしないでテスト受けようと思った……」
桃ちゃんと話していると少し、安心する。同じレベルでテストの話をして、同じ位の期待を周りから寄せられる。
美羽と並べられると、その差が大きすぎて辛いから。
オカルト部のテーマ発表は恙なく、なんとか終わった。都市伝説の定義と現代のネット上のホラー話の関係というなんとも漠然としたものだったけど、ネット関係に強い成田さんや、伝承や民話を専攻している叶先輩が中心となって議論を進めてくれた。
口伝のものはバリエーションが多くなって元が探しづらいことや、口裂け女のように社会現象にまで発展してしまったもの等、知っているものから、知らないものまで沢山の話が議論の中で出てくる。
聞けば聞く程、面白くなる。実際あったものと人の想像力とが組み合わさって生まれるもの。日常の延長線上で生まれたオカルト話は、怖くて、どこか優しい、そんな気がする。
美羽は、親族にあった機会に家系に伝わる怪異譚を色々を聴いて来て、類似の話がないかを調べてきた。物によってはほぼ同じ内容の話が東北の方に合ったり、ご先祖様の失敗を語り継いでいたりするみたいだ。
美羽の質疑、応答が終わり議論も進んだ。二人揃って、そう少し、同じテーマで進めてみる予定という事で発表を終えた。
発表も終わり、部室に集まれば雑談とオカルト話に花が咲き、偶に遠海さんが占った結果を中途半端に伝えて混乱が起こる。なんて穏やかな日が続いている間に、土屋さんの内定が決定した。
「いやー、思いのほか長引いちゃったよ。やっぱり俺、一般社会に馴染もうとすること自体間違ってたわ」
そう言って、晴れやかな顔で心霊相談所の内定通知を見せてくれた。『土屋 幹富 様』と仰々しく書かれた書面を嬉しそうにクリアファイルに入れている土屋さんからは普段の軽薄な感じはまるでなかった。
内定も無事、頂けたそうで、これから自由だ、と言わんばかりだ。
「やっぱ、楽な身になったことを祝って、何処か行ったことのない所行ってみたね。部費から出ないお金は俺の方で出すから、一個企画しない?」
「結構有名所ですか? それとも、新しい奴? 」
土屋さんの発言に、成田さんが喜々として聞き返して、叶先輩が部費の帳簿を確認している。
そこでようやっと気づいたけど、珍しく遠海さんは部室に来てないみたいだ。
成田さんと土屋さんで話が盛り上がってる中、叶先輩はいくらまでなら出せるか? と計算を始める。
そのタイミングで、叶先輩に尋ねてみた。
「先輩、遠海さん珍しくいないんですね」
「あいつは一週間の部室出入り禁止を科しました。遠海は偶にスキンシップが過ぎるから、可愛い後輩も入ってきたことを機に、少し反省させようと思ってね」
やれやれと遠い目をしながら、叶先輩が言う。何があったのかは聞かない方が良いんだろうなぁと思って、聞かない事にした。
でも、遠海さんが馴れ馴れしく近寄るのは叶先輩だけだから、この出禁はあんまり意味無いような気がする。
叶先輩から視線をずらすと、成田さん、土屋さんと目が合って、二人が口に人差し指を当てていた。どうやら、気付いていないのは叶先輩だけらしい。
遠海さん、頑張れと心の中でエールを送った。
後期の授業が始まって一か月位だった日、朝クラスに入るとクラスの皆が困ったような目で私を見てきた。一緒にいた美羽は、怪訝そうな顔をしていたから美羽が知っていることではないらしい。
毎日、先に教室についている桃ちゃんが席を立って、おはようと言いながら、手をわたわたと振って、事情を説明してくれた。
「さっき、凄く高圧的な女子が二、三人来て、瑞葉ちゃんいるか聞いてきたんだよね。それで、私がまだ来てないよって伝えたら、逆切れされて、瑞葉ちゃんの机を蹴飛ばして帰っちゃたんだ。机は戻したんだけど、中に入ってはファイルとか出ちゃって、中身もバラバラになっちゃったから、どう戻して良いか分からなくて……」
説明してくれた桃ちゃんからファイルと紙を受け取った。机の中に入れておいたのは、今日の英語の授業で使うプリントだったけど、一枚一枚ご丁寧に、マジックで悪口が書かれている。書いてる内容は、小学生でも書けるようなものだけど。
確かに、これを見たら、皆どうしたら良いか分からなくなるよね。
文字には見覚えはないけど、字の感じから女の子かなという事は分かる。桃ちゃんも女子って言っていたし、これをやった本人が私の反応を見たくて教室に来ていたのかもしれないと考える。
「とりあえず、私は三人の顔、覚えてるから先生に言おう」
桃ちゃんが私の手を引いて、教室から出ようとする。教室内では、こちらを心配そうな目をしてみている子と面白がっているんだろうなって子の大分されていた。
教室から出ようとする桃ちゃんに、待ってと美羽が声をかけた。
鞄の中からケータイを出して、少しいじっていると、一枚の画像を見せた。
「来たのって、右側に居る三人じゃない? 」
「髪型違ったから、全員確実にそうとは言えないけど、右から二番目と三番目の人はいた。この二番目の人が瑞葉ちゃんの机、蹴飛ばしてたから」
桃ちゃんの話を聴いた美羽は唇を噛んで、怒りを抑えていた。怒りそうになると唇を噛む癖は小学校の頃からあったかな。
「結局、藤村さんのせいなんじゃん」
美羽の様子を見ていた桃ちゃんがボソッと言った。
イラついたのか、何? と美羽が険のある言い方とする。
「結構前から、放送部の人が瑞葉ちゃんの悪口言ってるの知ってたし、それを広めて瑞葉ちゃんの悪い噂が流れてるのも知ってたけど、結局、藤村さんが放送局の事、有耶無耶にしてるからこうなったんじゃないの?」
できれば、今ここで放送局のことを言うのは避けてほしかったけど、そんな希望は届くことはなく、美羽の苛立ちを助長させている。
美羽の珍しい態度に、教室内の興味が寄せられる。
「その写真、中学の放送局の時のでしょ。大会の優勝旗持ってるし。休み前に、瑞葉ちゃん放送局の人に絡まれてたの分かってる?放送の人、藤村さんは瑞葉ちゃんに合わせてあげてるんだって言ってるけど、実際どうなの?ちゃんと、説明したの?やりたくないからやらないって、それだけで済まそうとしたから瑞葉ちゃんが巻き込まれたんでしょ」
桃ちゃんはそう言って、そのまま私の手を引いて教室を出た。教室を出てから少し行くまで、手を掴まれたままだった。桃ちゃんはうつむいていたから表情を伺うことが出来なかった。沈黙が重たくて、何かしゃべろうと思っても言葉が出てこない。
そのまま歩いて職員室が見えてきた位で、桃ちゃんが泣いているのに気付いた。
名前を呼んでも、私の方を向いてはくれなかった。けど、途切れ途切れに話してくれる。
「だって、なんで瑞葉ちゃんが巻き込まれなきゃいけないの? めちゃめちゃ怖かったし、暴力的だし、逆切れされて、どうしたら良いかわかんないし」
そういって、ぼろぼろと涙を流す桃ちゃんと私の組み合わせに職員室に向かう先生方が驚いていた。それから少しすると、担任の先生が慌てて職員室から出てきて、私達をそのまま保健室の隣の空き教室に連れいった。
どうしようもないので、事のあらましを先生に説明する。
先生はうーん、うーんと悩んだ後、学年主任に報告することと、放送局の顧問に伝えることを約束してくれた。
これで解決するはずもないけど、先生に出来る範囲で頑張ってはくれると思う。
教室に戻ると、心配と好奇心の混ざり合ったような視線を向けられる。結局、桃ちゃんと私は一時間目の授業は欠席扱いとなってしまったから、気になるのはしょうがない。
気持ちは分かるから何も言わずに席に着く。近くの席の人が、大丈夫と声をかけてくれるのに、ありがとうと返す。
美羽の方を見てみても、目が合うことはなかった。シャーペンを持って、メモ帳を開けているけど、特別何かを書いているわけでも無いようだった。
大丈夫かなと心配にはなる。同時に、なんで私がこんな目に合うんだろうと思ってしまう。
なんで、どうして、私が悪いみたいに言われるの?
中学の時もそうだった。美羽の問題なのに私が悪いみたいな言われ方をして、美羽に何かあった時は私が何かしたみたいな共通認識があって、いつも私が責められる。
美羽は常に頭が良くて、理解が早くて、優しくて、思いやりがあって、気が利いて、どんなことも許してくれる人だから、それから外れる時は、私が悪くなる。なんで、どうして。私は関係ないじゃない。
ああ、やっぱり私は少し疲れているのかもしれない。美羽と比べられたり、私のせいになるのは今に始まったことじゃないのに。
今更、気にする必要もないのに。
放送局の子の暴走は先生間でも問題になったらしく、放送局の顧問から謝られた。本人たちには会いたくなかったので、先生と会ってお仕舞、となったのは私的にはありがたかった。
そんなこんなでバタバタした日に、癒しを求めて部室に小走りで向かった。今日は、美羽は他の予定があるらしく、珍しく別行動だ。
部室に入ると、遠海さんは叶先輩の背中に凭れるようにして座っている。福原さんは何とも言えない顔でそれを見ていて、成田さんはにやにやしている。
「遠海、重い」
叶先輩が文句を言うと一瞬だけ体を浮かせて、直ぐに引っ付いている。
「お疲れさん、この状況どう思う? 」
ニヤついたまま、成田さんが声をかける。お疲れ様です、とだけ一旦返して、少し考えてから答える。
「悪化しましたね。一週間分ですか? 」
「そ、一週間分を一日で取り戻すってんで、さっきからずっと引っ付いてんの」
二人の様子を観察していると、言っても無駄だと悟った叶先輩が、重たい―と言って、遠海さんにのしかかるように重心をずらす。それに対して、遠海さんはその重みを何もしないで受け止めて、嬉しそうにしている。
ああ、逆効果だな、と思いながら眺めていると福原さんが何とも言えない顔をしている。手招きされたので近付くと、小さい声で話す。
「あの人達、デキてないんですよ。あのスキンシップでカップルじゃないんですよ」
叶先輩が鈍感なのか、満更でもないのか、遠海さんがめげないだけなのか、よく分からないけど、
「イチャつくなら余所でやって欲しいですね」
と呟くと、二名から、右に同じくと言われた。
遠海さんを叶先輩から引っぺがして、成田さんが咳払いを一つする。各々メモ帳を取り出して、話を聴く準備を整えた。
「えー、日頃から大変お世話になっている土屋さんの内定がついに決まりました。正直、無理だろうと思っていましたが、決まりました。それを記念し、本人の希望も聴いた上で、今回の調査場所を選びました。こちらですっ!」
そういって、机の上にバン! っと出されたのは、とあるビジネスホテルのチラシだ。
駅近で、立地も良い。でもチラシを見て気になった点がある。
「一泊三千円って安くないですか? 閑散期かもしれないですけど、普通この立地ならもっと高いですよね? 」
「そう、そこなんだよ瑞葉ちゃん。そして、このホテルには良くない噂がある。調べた所、どうにも何かあるなって感じがする」
「どんな噂? それによっては、危険すぎていけないかもよ」
「ある特定の一室に泊まると、宿泊者が人が変わったように暴力的になるらしい。穏やかだった人が暴言を吐くようになり、手を出すことのなかった人が、殴る蹴るを当たり前のようにしだすって感じでね、一週間経ったら戻るらしいけど、その間の記憶はないみたいだね。」
ちなみにチラシと同じ値段になっているのは、その部屋だけね、と成田さんが付けたす。
「土屋さんを満足させるなら、このレベル必要だよ思うんだよね」
成田さんがニヤッと笑って提案する。
それを聴いていた叶先輩は眉間にしわを寄せたまま、考えている。就活を控えている叶先輩や成田さんが暴行事件を起こすわけにはいかない。かといって、遠海さんや福原さんのように体つきがしっかりしている人がやると残りのメンバーでは抑えきれない。様々な可能性が頭の中で広がっているのだろう。
叶先輩の隣で、遠海さんがタロットをシャッフルして、カットする。集中して、淀みなくカードを扱う、指先の全てを繊細に動かして占う。現れるカード達を見て、遠海さんがしばらく悩みだす。
鞄の中から布袋を取り出して、その中から一つ石を出す。出された石はアルファベットのMに近い形をしていて、クロスしている部分もある。
「マナーツか……」
それから、手を組んだり、離したりして考えていた。沈黙が続く部室内の時間はゆっくり過ぎているように感じる。
遠海さんの悩む声、それを緊張した面持ちで待っている成田さん。
「うん、叶さんが良いなら、良いよ。ただし、叶さんの指示は従う事。叶さんも無理だと思ったらすぐに言ってください。ただ、俺の解釈で出した結論です。一人、二人はとちょっとした怪我は覚悟した方が良いと思います。何かあれば、土屋さんを投入してどうにかしてもらいましょう」
遠海さんが占いの結果を心配するのは珍しい。それでも、遠海さんの言葉を場を動かす力を持っているように感じる。
「じゃあ、土屋さんと予定合わせてだな。叶ちゃん、土屋さんに遠海の占い結果伝えても大丈夫? 」
遠海さんの占い結果を聴いてから叶先輩はずっと渋い顔をしている。このホテルでやるのは止めたいけど、土屋さんのお祝いだから手は抜きたくないと顔が話している。
表情でここまで言いたい事を表現できる人で珍しいなぁと思う。遠海さんは叶先輩の隣で、もう一度袋から石を取り出して、叶先輩に渡している。
旗のようなマークのルーン。詳しいことは分からないけど、それを見て叶先輩がため息一つと成田さんへの指示で悪い意味ではないのだろうと眺めていた。
そのホテルの事を報告した時の土屋さんのテンションは凄かったと、後日、遠海さんから伝えられた。
今日は土曜日、ホテルに向かう前にミーティングをしようと部室に一旦集まった。
成田さん曰く、件の部屋とその左右の部屋を予約したそうだ。その他に、参加する人のために四部屋を別の階で抑えてあるという。
「じゃあ、これから部屋割を決めるよ。っとその前に、今回は該当の部屋に入るのは女子でお願いしたいんだよね」
普段よりもわくわくしている土屋さんが話を進める。女子と言う制限に、参加者で顔を見合わせる。
参加者で女子なのは、叶先輩、美羽、それと私、三人だけだ。
「あっ、美羽ちゃん除いてね。なんか近寄るだけで祓えるみたいな所あるから、何も出てこないかもしれないからさ」
楽しそうな土屋さんの言葉で顔を見合わせる叶先輩と私。
私がやります、という言葉が出たのは二人同時だったと思う。
「先輩が何か拍子に暴力事件とか起こしたら、ダメですよ。来年就活じゃないですか! 」
「未来ある未成年にこんな危険なことさせられないでしょう! 跡が残るような怪我されたら困る! 」
叶先輩と言い分合戦をしていると、どうしようと、おろおろし出す美羽に、同意を求める。叶先輩は遠海さんに同意を求める。
「まぁ、瑞葉ちゃんで良いんじゃない? 何事も経験だよ、経験」
へらぁとした笑いを浮かべて土屋さんが言う。そこに目くじらを立てるのが叶先輩だ。
「危険な経験させなくても場数踏ませれば良いじゃないですか」
「私、やってみたいんです、土屋さん」
叶先輩の言葉に被せる様にいう。
「俺は、挑戦する若者が好きだよ。ね、遠海くん」
「危なくなったら土屋さんいますから、なんとかなりますよ叶さん」
土屋さんと遠海さんの言葉で押される叶先輩は言葉に窮していた。
「よし、該当の部屋に入る人は決まったな。それじゃあ、そろそろチェックインできる時間だし、出発するか」
成田さんの言葉で、立ち上がって部室を出た。
ホテルの部屋に入ると空気が重たいのが気になった。
私の部屋の右隣に美羽と土屋さん、成田さんの三人が、左隣に叶先輩、遠海さん、福原さんが控えている。
まずはカメラをセットする。一台はベッドが写るように、もう一台は部屋全体が写るように置く。このカメラは設定されているパソコンにデータを飛ばして、リアルタイムで見ることが出来るものだ。
連絡を取り合うにはケータイを使う必要があるけど、私が危なくなったら助けに入ってくれる手筈になっている。
カメラを起動すると隣部屋に控えている成田さんから、オッケーというスタンプがケータイに送られてくる。
部屋に入っただけでは何かが起こっている気もしないので、ベッドに横になってみる。
ケータイから、『何か聞こえたりしたら連絡ヨロ』というメッセージが表示される。ケータイを持った手が頭の横に来るようにした。何かが起こるのを待った。
廊下で誰かが歩く音、換気扇の音、沢山の音が鳴っている。ぼぉーとベッドに横になっているとどんどん眠気に襲われる。
事前に寝ても良いとは聞いていたので、眠気に身を任せようとする。一つ一つ音が消えていく。聞こえる音も遠くで鳴っているように感じる。
ウトウトとしているとケータイのバイブが何度も動く。最初は無視して寝ようと思ったけど、何度も鳴るから諦めて、ケータイを見る。
ゲームの通知やクラスグループの通知それくらいだ。特に重要というわけでもないからそのまま放っておく。また、眠気が襲ってきて頭が霞んでいく。
霞んだ頭で、最近の事を思い出す。中学を卒業したり、入学したり、オカルト部に入ったり、放送局の人に絡まれたり。
だた、楽しい事よりも、嫌だったことを次々に思い出す。
そう、いつも私にスポットライトは当たらない。それこそ幼稚園の頃から、大人達の興味は良い所のお嬢さんの美羽に向いていて、私は附属品。
テストで同じ点数とっても美羽は心配されて、私は放置。
何かしようとしても、美羽がやるといったら賛同と助力の嵐、私がやろうとしても鼻で笑われてお仕舞。
美羽が何かして、成功したら美羽の実力、失敗したら私のせい。
美羽がこの学校を選んだのは私のせいで、放送局に入らないのも私のせい。
全部、全部、全部、私のせい。
私が頑張っても、美羽ができると私の努力はなかったことにされる。
そんな毎日から逃げたくて、日常の延長線上に救いを求めたのに、どうして美羽がいるの? 私のための優しさは何処?
美羽は努力している。私は努力してないの? 私の発表は出来の悪い物だった? 私が聞こえないのは、見えないのは、感じないのは私の努力不足なの?
なんで、美羽ばっかり得られるの? 綺麗って言われるのがそんなに嫌? 声が褒められるのはそんなに嫌?大人に期待をかけられるのはそんなに嫌?他の誰かに必要とされるのはそんなに嫌?
ずるい、ずるい、ずるい、ずるい、ずるい、ずるい、ずるい、ずるい
私には何もないのに、美羽ばっかりがずるい
苛々が止まらなくなって、涙が止まらなくなる。頭の中がぐちゃぐちゃになって、破壊衝動が止まらなくなる。
何で、こんなところに私がいなきゃいけないの?
横になっていられなくて上半身を起こす。苛々が止まらない。通知を告げるバイブ音にすら苛立たせる。
「うるさいってんでしょ! 」
ケータイを設置したカメラに投げつめる。ガシャンという音と一緒に倒れたカメラとヒビが入って画面が黒くなったケータイに少しだけ心が落ち着く。
それでも、イライラは止まらない。今まで言われてきた比較される言葉が頭の中でグルグル回る。画面の付かなくなったケータイを拾い上げて床に叩きつける。金属がぶつかる音を聴きながら何回も何回も繰り返す。
ケータイの画面が割れても、部品の一部が飛んでも、着けているストラップが引きちぎれても、止められない。壊れていくのが楽しい。
「死ねよ、死ねよ、死ねよ、さっさと死ねよ。毎回毎回うるせぇんだよ、黙れ、さっさと死んで、黙れ」
頭の中が知っている人の顔で埋め尽くされる、壊す度に、殴る度に、蹴る度に顔が減っては別の顔が浮かんでくる。
消えろ、消えろ、消えろ、消えろよ、死ね、死ね、死ね、死ね
思い付くまま、言葉が口から出てくる。怒鳴りつけるようにがなり立てるように、叫んでいた。
目の前にあるもの全てが気に食わなくて、壁を蹴る。足が痛い。それすらも気に食わない。気に食わない!
カメラを立てていた三脚を手に取る、カメラが付いたままだったけど気にしないで振り上げる。
全部、全部、全部、壊したい!
「いい加減にしろっ! 」
三脚を振り下ろそうとしたら、ぶ厚い本で後頭部を殴られた。殴られた衝撃で体をよろめく。そのまま、後ろからもう一撃。
「死んだ奴がイキがってんじゃねぇよ! 」
振り向きざまにもう一撃。表紙を叩きつけるように額を殴られる。
乱暴な言葉だけど、その声は可愛いソプラノで、美羽だなぁと思って、そのまま暗転した。
人の話声が聞こえる。紙をめくるような音と硬い物がぶつかる音。髪を撫でられる感覚。額に冷たいものが乗せられた。
すごく体が軽い。ゆっくり、瞼を持ち上げる。
照明が眩しくて、また目を閉じそうになる。
「起きた? 」
覗き込んできた影で光が遮られる。ぼんやりとした視界がゆっくりと明確になる。
「美羽? 」
「大丈夫? 結構、力入れて殴っちゃったから。頭痛いとかない? 」
「頭、ぼんやりする。あと、腕と足痛い」
感じている事をそのまま口にすると、やっぱり脳震盪じゃない? と叶先輩の声が聞こえた。
「偶々手元にあったからって古典の辞書で人の頭を全力でぶっ叩いたら脳震盪位起こすんじゃない? 相手が正気だったら暴行事件よ」
そう言いながら、水を渡してくれた。
そうか、私は部屋のベッドで横になってたんだ。それから……
「ベッドに横になって以降の事、何か覚えてるかい? 」
土屋さんの声が聞こえるけど、姿が見えない。美羽の影になってるみたいだ。
「何も覚えていません、ただ、イライラしていた事は覚えています」
「そうか、抑圧された感情がキーになるみたいだね。部屋に溜まっていたのは祓い切ったけど、十分しない内に集まって来るね、これじゃあ祓ってもキリがない」
「風水の問題ですか? 」
「それもあるけど、この建物作るときに水脈切ったみたいだから、それも関係してるかもなぁ、このホテル自体使わない事が得策だね」
ぼやぼやした頭が少しずつ戻ってくる。指先の感覚がはっきりしてきて、指先が切れていることに気付く。
私の頭を撫で続けている美羽以外は、私が寝た部屋についての考察で盛り上がっている。
「私、なんかしちゃった? 」
「うーん、ケータイはご臨終してたよ。明日一緒にケータイショップ行こうか」
他には? と訊こうと思ったのに、またどんどん眠くなる。
「お休み、起きたら回復してると思うから、今はちゃんと休もうね」
まだ寝たくはなかったのに、美羽の声で安心したのかふわっと意識が落ちていく。フワフワの布団の中に落ちていくように感じた。
後日、ケータイのデータとゲームのデータが無事復旧した事を報告しようと部室に来た私に、成田さんがビデオに残っていた映像から、音声を文字にしたものを手渡した。
部室には、成田さんと私だけで、私が来るまでネット上の情報を集めていたみたいだ。
何ページにも及ぶそれに目を通していく。
「これ、全部私が言っていたんですか? 」
「うん、まぁ、大半が同じ言葉の繰り返しだけどね」
基本、言っている言葉は、死ねとうるさい、黙れ、ずるい、の四つだ。
「映像見せても良いんだけど、自分の口から、自分じゃない声が出てる映像は中々ショッキングだと思うよ。俺は見ないことをお勧めする」
「ちょっと勇気が出ないので、やめておきます」
それが良い、と成田さんが言ってパソコンを閉じる。
「無知で人を危険にされした坊主の話をしようか」
急に、成田さんが真剣な顔をして私に向き直った。
「俺はさ、軽い気持ちでこのサークルに入ったんだよ。どうせ名ばかりサークルだろうって、そしたら最初の肝試しがあれだろ。俺は途中でぶっ倒れるわ、初対面の女子に運ばれるわで最悪だった。霊感もないから、なにがあったのか分かんないままだったし。それで、一年の合宿の時だったかな、肝試し先の森で木の枝を一本持ち帰えろうとしたんだ。そしたら、行きと同じ道歩いてるはずなのに道に迷ったんだ。グルグル同じ場所を回ってさ」
あの時の土屋さん怖かったぞ、と言いながらクーラーボックスを開けて、コーヒー牛乳を渡してくれる。
「もう、森出てから怒られる、怒られる。叶ちゃんが森で迷ってる間にもう居たくない、怖いって泣き出しちゃってて、直ぐに俺が枝を捨てなかったせいで、その状態長引いちゃって。森を出た頃には過呼吸状態、半パニック状態よ。先輩方が宥めてくれたから大丈夫だったけど」
パソコンの淵を指でなぞりながら、当時のことを思い出しているみたいだ。
「それで、叶ちゃんの体質悪化させちゃったんだよね。土屋さんには、ネットで調べて分かること位は頭の中に叩きこんでから出直してこいって怒鳴られたよ。あの状況が続けば全員危なかった。神様の結界は土屋さんでも破れないからね。無知は罪なんだってその時よく分かった。それから、その手の情報をひたすら集めた。時間があればネット開いて調べてた、土屋さんに合格貰えるまで何回も調べた事まとめたデータ送り続けたよ」
合格を貰えるまで四か月かかった、と笑って言うけど、笑って済ませられる時間じゃなかった。
「瑞葉ちゃん、俺はそれがあったから今はネットから情報を持ってくる人に成れたよ。瑞葉ちゃんも焦んないで、ゆっくりしなよ。まだ高校一年生だよ。大学に入るころには誰にも引けを取らない特技を持ってるからね、一年でどうにかした俺が言うんだから安心てよ」
ゲラゲラ笑って成田さんは私を慰めてくれた。
それから、遠海さんが来て私を見て、憑き物が落ちたねと笑ってくれた。少しして、野菜ジュースを飲みながら叶先輩が来て、成田さんが私を虐めてないかの確認と取り始めて、福原さんが来たと思えば、遠海さんに頭を下げて英語を教えてくださいと拝み倒している。
土屋さんは、いつもの掴み処のない雰囲気で、人数分のカップケーキを買ってきた。
美羽が来るのを待ってから食べようと待っている時に、土屋さんが私の前に座った。そして、鞄の中から、ピンクのフワフワしたものが入ったい瓶を見せる。
「何か見えるかい? 」
「ピンクのフワフワしたのが見えますけど、可愛いですね」
叶先輩が一緒になって覗き込む、
「めっちゃ小さい蝶々に見える」
私と違うものが見えた叶先輩に興味を示した残り三人が、何も入っていない、黒い結晶、青い羽根だと見えたものを口々に話し出す。
その状態を見た、土屋さんが苦笑いを浮かべながら、あーらら、と呟く。
「霊媒体質、着いちゃったね。お憑かれ様です。これからあなたは霊能者と仲良くする羽目になります」
えっ、と全員の声が重なって、全員の視線を受けることになった土屋さんは、そんな目で見られてもとしどろもどろになった。
それから、十分も経たない内に、遅れましたと声をかけながら美羽が入ってくる。
全員、座ったのを確認して叶先輩が資料を配る。資料を見ながら、各々カップケーキのカップを向いている。福原さんが壁際のティッシュ箱を持ってきて、一枚ずつ配る。
その様子に、ため息を吐いて、叶先輩が号令をかける。
「では、先日のホテル調査の反省会を始めます」
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