照衛門の傘

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照衛門の傘

湿った空気を嗅ぎ、縹之介(はなだのすけ)は空を仰いだ。 「一雨来そうだな」 雨は好きだ。江戸の町、も組の地区が火を吹けば、彼は纏を持っていち早く現場に駆けつけて火消しの仕事を行わなければならない。そうでない時は鳶職人だ。今日は既に一仕事終えて家路に着いたところだった。 通りを行き交う人たちの多くが泣き出しそうな空を見上げている。その手には準備よく、傘が握られていた。それも今流行りの照衛門の傘が。 「ちょっくら寄ってみるか」 縹之介はご機嫌に友人のいる長屋の方へと足を向けた。 「照〜」 縹之介が幼馴染の家に行くと、作業中の彼は顔を上げて微笑んだ。 「ああ、はなだかぁ。仕事帰りか?」 「相変わらず、売れてるみたいじゃねぇか。忙しいだろ?」 「有り難いことだよ」 照衛門は手招きし、縹之介を座らせた。板張りがギシッと音を立てて軋む。彼は厨の戸棚から饅頭を持ってきた。縹之介は「ありがとよ」と遠慮なくそれを掴む。 「それにしても何だな。名前に『照』の字のつくおめえが、傘張り職人なんて」 「そうだなぁ」 照衛門はお天道さんのような暖かい笑顔で頷いた。
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