プロローグ

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プロローグ

 荒木伸太郎はできたてのホットコーヒーを小さなカップに注いだ。「お待たせしました」という台詞と共に、カウンターにそのコーヒーを置く。老人は小さく「ありがとう」と返すと、そっと持ち手に指を通してカップを手前に寄せた。  しかし老人は、一口飲んだかと思うとすぐに文庫本を開き、それっきり小説の世界に入ってしまった。  少々無愛想だが、これがこの人なりの楽しみ方なのだ。伸太郎はそんな老人を笑顔で見つめていた。  ふとレジの方を見ると、家族客と思われる三人組がこちらを見ていた。と言っても、一人はまだ赤ん坊だが。伸太郎は笑顔のままそちらに向かった。 「おいしかったわ、ありがとう」 母親らしき女性が笑って話しかけてきた。「また来ますね」と男性の方も付け加える。 「ありがとうございます。実はこのお店、ここで開店して一週間なんですよ」 「へえ、そうなんですか。私達、隣町からここまで買い物に来たんです。それでついでに寄ってみたんですが、ここを見つけられて良かったです」 「隣町ですか?このお店も元々隣町にあったんですが、こっちに移転したんです」 「ええ?全然知りませんでした。ねえ、あなた」 「ああ、もっと早く見つけてたら良かったなあ」  伸太郎はお客さんと談笑するのが何よりも好きだった。さらにこうして店のことを褒めて貰えた時には、心の中でガッツポーズをするのだった。
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