2

1/2
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ

2

 伸太郎はとっさに隣町の大通りを思い浮かべた。時間は夕暮れで、歩道を歩く人の姿もまばらだった。そして、ぽつりぽつりと小雨が降っていた。  そのとき伸太郎は新たな喫茶店の開店準備のため、装飾品を買い出しに行った帰りだった。傘も持っていなかったので、伸太郎は小走りで帰宅する途中だった。  そんなとき、背後から聞き慣れた声がした。 「君、あまりそうせかせかするのは良くないよ」  振り返るとそこには想像通り、宗吉が立っていた。彼は今日と同じ藍色の傘を持っていた。しかしその傘は閉じられており、傘の先は地面に触れている。そのことを不思議に思っていると、宗吉は伸太郎の視線に気付いたようで、肩をすくめて言った。 「なに、この程度の雨なら傘をさすまでもない」 「相変わらず神出鬼没ですね。でもあいにく今は忙しいんですよ、開店したときにのんびり話しましょう」  伸太郎は笑顔で言ったが、宗吉は少し不満そうな顔をして伸太郎の方へ歩き出す。 「のんびり話すのは別に今でもいいだろう?どうだ、調子は」  伸太郎は歩調を遅めて宗吉と肩を並べた。この人のゆったりした口調は、心を落ち着かせてリラックスさせる効果があるようだ。伸太郎もつられて肩の力を抜いて話す。 「もうすぐ僕の喫茶店が新しくなると思うと楽しいですが、その準備で今はへとへとですね」 「そうかそうか。でもまあ、その程度で焦ることはない。この先もっとへとへとになるようなことが沢山あるんだ」 宗吉はそう言うと空を見上げた。しかし、どうやら説教はまだ終わらないらしい。 「この雨もこの先もっと激しくなるんだから、これくらいで慌てているようでは駄目だ。これは人間も同じで、傘をさすべき人なのかどうかちゃんと見極めなければいけないよ」  宗吉はそういったきり黙ってしまった。最後の言葉の意味はよくわからなかったが、これ以上深く訊いてもどうせ適当にはぐらかされるだけだろう。伸太郎は返事に迷っていた。  そうしてふたりの間に静寂が訪れた時、目の前から灰色の傘を持った男が走ってきた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!