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 ふたりはその出来事について少し語り合った。その間にオムライスが出来上がってしまったので、伸太郎は会話を中断し、それを美穂さんのもとへ持っていった。  美穂さんは「ありがとうございます」と言ったあと、信太郎に話しかけた。 「あのおじいさん、凄いんですね。びっくりしました」 「ああ、聞こえてましたか。実はあの人、僕の店の最初のお客さんなんですよ」 伸太郎がそう言うと、美穂さんはさらに驚いた様子で「そうなんですか、素敵ですね」と言い、少し微笑んだ。  まるで自分を褒められたような良い気持ちで、伸太郎はカウンターに戻った。宗吉は軽く咳払いすると、先程の会話を再開した。 「それで、この傘の新機能の話だったな。まあ要するに、あの時もっと簡単に仕留められたのではないかと思ったわけだ」 「もっと簡単に、ですか。あれでも一瞬で仕留めてたじゃないですか」 「私は比喩ではなく、文字通り一瞬で終わらせたいんだ。そのために考えたのが飛び道具だ」  傘の話で『飛び道具』という言葉を登場させるのは、この人くらいだろう。伸太郎はますます興味を抱き始めた。  その時、大きな音で扉が開かれた。それと同時に、雨の音をかき消すくらいの話し声が耳に飛び込んできた。  伸太郎が扉の方へ振り向くと、そこには厚化粧をした老婦人がふたり、どしどしと店内へあがってくるところだった。手には安物らしき透明なビニール傘を持っている。  
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