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「俺も久しぶりに見たくなった。燃え上がる炎が、それは美しいぞ」
「それは楽しみです! レオン様がご一緒なら、ソフィーも許してくれるでしょう」
それを聞いて、レオンがけげんな顔になった。
「もしかして、ソフィーには黙って出てきたのか?」
は、とローズは口元を押さえて、無言で目をそらした。すると、レオンが楽し気に笑いだす。
「そうだったのか。今頃ソフィーは青くなっているのではないか?」
「だ、大丈夫です……気づかれる前には帰る予定ですので、多分……おそらく……」
ふと、レオンは思いついたように言った。
「では、明日は俺もエリックに黙って出てきてみようか」
「え?!」
驚くローズを見て、レオンはにやりと笑った。
「エリックはもう長く俺に仕えているが、あいつが動揺している様を俺は見たことがない。黙って俺がいなくなったら、あいつはどんな顔をするかな」
「そんな……何もレオン様がそんな真似をしなくても」
「かまわん」
レオンは、結ばずに流しているローズの髪にさらりと触れた。
「お前と同じ気持ちを味わってみよう。想像しただけでこれほどに胸が浮き立つのなら、実際試してみたら一体どんな気持ちになるのか。俺も、今から楽しみだ」
(レオン様……)
穏やかに微笑むその顔を見上げると、ローズの胸は締め付けられるように苦しくなって、なぜだか涙が出そうになる。
(一体私、どうしちゃったのかしら……)
言葉を詰まらせたローズに、レオンは優しく言った。
「今日はもう帰ろう。厳しくされて、明日抜け出せなくなると困るからな」
「……はい」
☆
「待たせたな。用意はいいか」
次の日、ローズが約束通り裏庭で待っていると、あたりをうかがいながらレオンがやってきた。その姿を見て、ローズの返しかけた言葉が口元で止まってしまった。
お忍びで街に出るために、レオンは貴族の普段着ではなく街の青年の格好をしていた。けれどそんな格好になっても、レオンの精悍さは隠せない。むしろ、服装が質素なだけに逆にその体躯や顔に目がいって、ローズはその姿に見惚れてしまう。
(レオン様、かっこいい……)
返事がないことを気にすることもなく、レオンは立ち尽くすローズを見て目を細める。
「お前は、そういう服装も似合うのだな」
ローズが着ていたのは、持ってきた自分の服の中でも一番新しいきれいな服だった。
何を着ようかなどと悩んだのは生まれて初めての事だった。髪も念入りにとかしたし、靴も綺麗に磨いてきた。
最初この館に来た時は、あれほどに顔を合わせるべきではないと思っていたのに、今日のローズは、レオンと出かける約束を昨日からずっと心待ちにしていた。
(明後日の結婚式では、きっとすべてがばれてしまう。場合によっては、私も姿を消さなければいけない。こうしてレオン様と言葉を交わせるのも、今日が最後だから……せめて、一番きれいな私を覚えていてもらおう)
言い訳のように自分に言い聞かせて、ローズは部屋を出てきた。
「あ、ありがとうございます」
うつむき加減に言ったローズの顔を、レオンは少しかがんで覗き込む。
「どうした? 不安か?」
そう言われてローズは、自分が浮かない顔をしていたことに気づいた。あわてて顔をあげると、笑顔になる。
「いいえ、そんなことはありません」
「心配するな。俺の腕は昨日みただろう。何があっても、俺が、お前を守ってやる」
いつくしむように言ったレオンの言葉に、ローズの胸はさらに苦しくなる。
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