お母さんの傘

3

　翌日も雨で、奈緒はビニール傘で出勤した。
接客は笑顔で務めたが、気持ちは塞いだままだ。

　昼休憩で喫茶店に入り注文が運ばれてくるのを待つ間、奈緒は店内の貼り紙に気づいた。
飼いネコの写真の下に特徴や名前が書いてある、家出ネコ捜索の貼り紙だった。
　ネコがみつかるといいなと思いながらランチをつついていたとき、ある考えが頭によぎった。

　奈緒は帰りの電車内でスマホを手にすると、母の傘と同じ柄の画像を探した。
　幸いに同じ傘がみつかり、スクリーンショットを保存した奈緒は、画像にメッセージを添えてツイッターにアップした。
〈この傘は母の形見で大切なものです。昨日、●●駅のコンビニで、帰るときに無くなっていました。もし見つけた方は改札を出て左にあるコンビニの傘立てにお願いします〉

　はじめは「大切な傘が盗まれました」と書いたが、犯人探しになることに抵抗を感じて、しばらく考えたあげく書き直した。

　帰宅して風呂から上がった奈緒がツイッターを見ると、短時間に百件を超えるイイネが押され、リツイートも数件されていた。
ー　傘見つかるといいですね！
ー　見つかること願ってます
など応援メッセージもあり、「ありがとうございます！」と奈緒はすぐにお礼を返した。