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 翌日の朝、奈緒はコンビニに寄って傘立てを確認したが母の傘は無かった。  昼休みにツイッターを確認するとイイネが二百件を超え、応援メッセージも増えていた。 しかし傘についての情報はなく、「もう、戻ってこないよね……」と、独り言をこぼした。 ***  傘が無くなってから二日目の午後、休憩時間にツイッターを確認すると、さすがにイイネは増えていなかったが、新着メッセージが一通届いていた。 〈こんにちは。今日の夕方、コンビニに傘置いておきます〉 おもわず「えっ?」と声を出した奈緒は、短いメッセージを何度か読みかえした。  急いで送り主のプロフィールを確認したが、過去のツイートから、女性らしいことしかわからない。  送り主が母の傘を持ち帰った相手だったら、ごめんなさいくらい書くだろうとか、いろいろと考えたが、奈緒はとにかく早く帰りたかった。  八時半すぎにようやく駅に着いた奈緒は、急いでコンビニに向かった。  遠目から傘立てを目にするや、足を速めた。 横長の傘立てに、母の傘が何本か刺してある。  全部で三本あり、そのうちの一つは柄に薄いキズがある母の物だ。 しかし他の二本は明らかに新品だった。  一本には小さなカードが挟んであり、「お母様の物ではありませんが、よかったらお使いください」と添えてある。  ツイッターを見た誰かが自分に同情して、同じ傘をプレゼントしてくれたのだ。それもおそらく二人も。  奈緒は母の傘を握りしめて、見知らぬ人の温かさに、しばらくその場を離れることができなかった。  帰宅した奈緒は、三本の傘の写真とお礼の言葉をツイッターにアップした。  仏壇の母に報告すると、写真の中の母も優しく微笑んでいた。  翌朝は、数日降り続いた雨が嘘のようにすっきりと晴れわたり、奈緒は久しぶりにベランダの窓を全開にして朝の空気を胸いっぱいに吸いこんだ。  母が大切に育てていた紫陽花がみずみずしく光を反射して、とても綺麗だった。 ー おしまい ー
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