楽園は果てなき

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 僕は神社の前に立っていた。鳥居の向こうは騒がしく、大勢の人が往来している。 「奏多、こっちへ来なさい」  数歩先へ進んだ所で、男の人が僕の名前を呼んだ。誰なのかは知らない。なのに、とても懐かしい心地がする。僕の足は自然と男の人の下へと向かう。  男の人の隣には女の人もいた。僕が近づくと優しい笑みを浮かべて、 「あっちの方でわたあめが売ってるみたい。買ってあげるわね」  と言った。女の人が僕の右手を手に取る。空いた左手は男の人が握る。それから神社の中へ入っていく。二人から伝わる手の温もりは、不思議と心地が良かった。  右はたこ焼き、焼きそば、ベビーカステラ。左はお面、くじ引き、輪投げ。たくさんの出店に目移りしてしまう。通りすがっていくたくさんの人たちは、誰もが晴れやかな表情を浮かべている。やがて目的のわたあめ屋へ着くと、女の人がわたあめを買ってくれた。一口かじれば、ふんわりと甘い世界へ。わたあめを堪能していると、女の人は優しく僕の頭を撫でた。  次に、僕は公園にいた。周りには僕と同い年ぐらいの男の子たちもいた。僕達が手に持っているのは、木の枝ぐらいの細長い棒。先端から白い光がバチバチとほとばしっている。  外は暗くて遠くが黒に染まっている中、いくつもの白い光が僕達を照らす。光を眺めるみんなの瞳もまたキラキラと輝いている。  それからも。地面をクルクルと回る輪っかの光、筒から激しく飛び出す光、色とりどりの光を眺めていた。 「綺麗だな」  誰かがそう呟く。「そうだね」と頷く。先ほどまでとは打って変わって、静かに散っていく淡い光。迫力があるわけではないけれど、終わりの時までずっと目が離せなかった。
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