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成り代わり願望
「別れよう」
「え……今、なんて……?」
「僕たちは別れるべきなんだ」
助手席で彼氏の運転を眺めていた私は突然の告白に驚いた。ついさっきまで冗談を混じえながらドライブをしていたのに、どうして?
「なんで? なんでよ! 今まで仲良くやってきたじゃない! それなのにどうして、こんな……」
「ごめん」
「謝って済むと思ってんの! ねぇ、なんでよ!」
「……」
男はそこで口をつぐんで運転に集中する。やがて決心がついたのか、ゆっくりと息を吐いて車のスピードを緩める。そして助手席側を一瞬でも見ることなく、残酷な言葉を告げる。
「妻と子供がいる」
左手の薬指を確認する。そこに指輪はない。
「うそよ」
「本当だ」
男は右手でハンドルを握り、左手を上着のポケットに入れる。出てきたのは革のカードケース。年季の入ったそれをひったくるように奪う。
(うそ! ウソよ! 絶対に信じないんだから!)
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