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車のエンジンをかける。ようやく手に馴染んだハンドルを握り、事故があった現場へと走らせる。夫がいた頃は車の免許を取らなかったが、今は生まれたばかりの息子のためにも車が必要だった。
幼い我が子を連れて電車には乗れない。昨今、子供を持つ母親への態度が冷たいからだ。加えて感染症の心配もある。話が通じるくらいまで大きくならないと電車には乗せられない。過保護と言われようが、今ではたった一人の――夫の血を引く家族だ。
息子を両親に預け、郊外へ向かう。長距離を走るのは初めてだが、不思議と不安はなかった。むしろ車が少ないから快適さを感じる。
代わり映えしない景色に飽きてきた頃、徐々に山の輪郭が見えてきた。夫もこの道を通ったのかな。亡き夫に思いを馳せつつさらに車を走らせ、大きな木が立ち並ぶ場所を通過する。木は山を越えるまで続く。夫の車は細長くもしっかりとした硬さを持つ木に押し潰されていた。この辺りに生えているのは車を潰した木と同じだ。
ついにここまでやってきた。絶対に写真を見つけたい。警察でも見つけられなかったのだから、一般人であるわたしが見つけられるはずもない。頭の片隅で無茶なことは止せと囁く現実的な考えを持つ自分がいる。でも、写真は見つけられるという予感があった。女の勘というやつだろうか。
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