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3:語られた過去
その日はまるで、俺の気持ちを再現したかのような雨模様でした。
当時小学生だった俺は、学校で少し嫌な事があって、ちょっと寄り道をして帰ろうと思ったんです。
パタパタと傘が雨に打たれる音を聞きながら、普段はあまり通らない、家まで少し遠回りの道を歩いていました。
その時だったんです。
人気のない路地裏で倒れている歩を見つけたのは。
それも思わず息を飲むような大怪我を負って⋯
驚きました。
そんなに大きな怪我を負った人を見た事なんてありませんでしたし、何より少し行けば大通りに出るような路地に本来の姿のアニマノイドがいる事が信じられなかったんです。
元々俺の爺ちゃんがこの喫茶店をやっていて、爺ちゃん子だった俺は小さな頃からアニマノイドと関わって育って来ました。
『人間社会ではアニマノイドは完全に動物か、完全に人間かのどちらかの姿で生活している』と知っていたんです。
俺は大慌てで、防犯の為に持たされていた携帯電話ですぐ爺ちゃんに連絡を入れました。
流石に同い年程の男の子を、しかも大怪我をしているのを背負って帰るのは無理ですから。
幸い爺ちゃんはすぐに来てくれて、多くの人の目に止まらない内に保護出来たんです。
歩の怪我は本当に酷いものでした。
⋯子供だった俺は詳しく教えては貰えませんでしたけれど⋯
無理に切り落とされたような腕
全身に押し付けられたような火傷
細かな切り傷
殴られたような青あざ
蚯蚓脹れのような治りかけの古傷
たぶんもっとあったんだと思います。
流石に歩が入れるような大きな水槽は無かったので、バスタブを代用して療養してもらいました。
数日の内には歩の意識も戻り、事の真相を聞くことが出来ました。
それまで傷の状態から、虐待を疑っていたんです。
ですが実際歩の口から聞かされたのは『実験』
例え普通のウーパールーパーに対してであっても、普通の研究者ならば絶対に守るだろう衛生面や、実験体への負担を一切考えない者の仕業だったんです。
それも見た目はほとんど人間と変わらない歩に対して。
当然そんな人間性に問題が見えるような人物がまともな研究施設になんて入れなかったようで、やはり八つ当たりじみた暴力も常に行われていたようでした。
なんとか歩の怪我は全て数ヶ月で治って、その頃には俺や爺ちゃんとも打ち解けてくれました。
ですが、そのエセ研究者がどんな伝手で歩を手に入れたのかがわかりません。
なのでその後は親分の助言の元に、人間社会である『現世』とアニマノイドが暮らす『隠世』を繋ぐこの店に結界を張ってここで一緒に暮らす事になりました。
アニマノイドに好意的な印象を持ってくれて、普通の人間と同じ様に扱ってくれる人のみが見つけられるようにしていたんです。
歩がこれ以上酷いめにあわないように
他のアニマノイドが人間の悪意の目に触れられないように⋯
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