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8月最初の日曜日。 じりじりと焦げ付く太陽の下、月1回のデートでテーマパークに遊びに来た。 そこで美味しいランチをご馳走になりながら、キューピッドの活動報告をしている。 「それで、2人は無事にうまくいったんだ」 「うん。半分くらいは私のお陰だと思う」 「さすが、僕のキューピッドは有能だね」 彼が優しく褒めてくれるので、私はますます得意になって話を続ける。 「告白シーンがね、ドラマみたいですごかったんだよ」 === 1学期の終業式後に開かれた学年集会でのこと。 それは、高2の夏休みが受験に備えてどれだけ大事かを説く、進学校にありがちな叱咤激励会だった。 そして48歳の堅物学年主任の発案で、当てられた数人が夏休みの抱負を発表する事になり。 あからさまに「余計な事を」という顔をした担任たちも、一応素直に従った。 そして、当てられた全員が面倒くささを前面に押し出しながら当たり障りのないことを言っていく中、あいつの順番が来た。 「俺は、両片想いを脱出して、夏休みを謳歌し尽くします!」 その魂からの叫びに、気だるげな体育館の空気が一瞬で変わった。 咄嗟に近くにいるハーレム女子の一人を見ると、なぜか両手を組んで応援するかのような表情をしていて。 わ、それ、なんか嬉しい――と思った瞬間。 「あぁぁあーちゃん、おっ俺と、つきあって管オアrぷえw0fん8う!!!!!!」 いやいや、噛み過ぎだろうと。 緊迫の空気を返してくれと。 さすがの学年主任も爆笑し、涙を流しながら言いかけた。 「お前それ、こんなとこで言たって意味がないだろ――……」 言いかけて、固まった。 あさひが、号泣していたからだ。 それでどうやら、あさひ=あーちゃんだと認識したらしい。 生徒だけでなく先生たちまで息を飲んであさひの返事を待つ中。 「しん君、ずっとずっと大好きですぅぅぅーーーー!!!!!!」 === 「そのあとはもう収拾つかないくらいの大騒ぎで、真也なんてあさひのハーレム君たちに胴上げされてるし、その勢いに乗って他の人に告白し出す猛者も現れるし、あの人たちのお陰でいろいろ面白すぎたよ」 「うわぁ、青春だなぁ。そういうのなかったから、羨ましいよ」 楽しげに笑う彼の表情をじっと見つめる。 その表情のどこかに淋しさは混ざっていないだろうかと、探してみる。 「どうしたの?」 「ううん、どんな気分なんだろうなぁって」 「娘に彼氏ができるのが?」 「うん」 ユウキ君は、少し困ったような顔をした。 「どうだろう……僕は父親としては不適合だったからね。あさひは確かに娘だけど、別の人間だとずっと思っているし、彼女の決断に何か言うつもりは全くないんだよね」 そういう冷たさが原因で奥さんにも嫌われちゃったんだけど、と、彼は笑う。 そういう、遠慮したような、卑下したような笑い方をする彼は好きじゃない。 私が話を振っておいてなんだけど。 「じゃあ、あさひがとんでもないダメ男を好きになっても反対しない?」 「あさひはそんな男を選ばないよ。だからこその、真也君じゃないか」 ユウキ君は決して冷たいわけじゃない。 ただ、信じた人間をとことん信じきっているだけだ。 あさひのお母さんが外に恋人を作ったことを気にしなかったわけじゃない。 ただ、本当に、信じすぎていて気付かなかっただけ。 そういう信頼を踏みにじったあさひのお母さんのことは、あさひには申し訳ないけど今も好きじゃない。 だけど、ユウキ君を捨ててくれてありがとうとも思っている。 「ねぇ、もしもあさひに私たちのこと話したら、あさひは何て言うかな」 「さぁ……驚きはするだろうけど、否定はしない子だと思うよ」 うん、私もそう思う。 きっとあさひは複雑だろうけど、それでも「じゃあ、京香ちゃんは私の2人目のお母さんだね」――とまでは言わないかもしれないけど、そんな空気で笑ってくれるような気はする。 「あーあ。私も早く、本物の恋人になりたい」 「本物?」 「ユウキ君と」 「ずっと前から本物だよ。ただ、世の中のカップルより節度があるってだけ」 そう言ってくれるユウキ君に、他の誰にも見せないとびきりの笑顔を向ける。 やっぱり私は、この人が大好きだ。 そして、この人の子どもであるあさひも大好きだ。 今は17歳と37歳で、世間から見たらいびつかもしれないけど。 27歳と47歳ならアリだと思うし、37歳と57歳なら私から見ればもはや同じカテゴリーだ。 「いつか、ダブルデートしようね」 「それは嫌だな」 「娘と彼氏がいちゃつくのは見たくない?」 「いや、僕が京香にデレデレしているのを、娘にだけは見られたくない」 この時、私はあまりにも幸せで。 同じ店にあの2人もいるだなんて、微塵も思っていなかった。 楽しいランチを終えて外に出てみれば、そこには驚愕の表情を浮かべた2人が待ち受けていて、ここからちょっとした騒動に発展したのだけれど、恋っていうのはままならないものなのだから仕方がない。 最後はそう言って全員で笑った。 大学生のユウキ君と強引に結婚したらしいあさひのお母さんも。 5人目の夫と仲良くやっているうちの母も。 友達のお父さんに恋してしまった私も。 娘の友達を受け入れてしまったユウキ君も。 報われないと知りながらそれでも側にいた、ハーレム男女たちも。 ついでに、高校時代から付き合って結婚して堅実に円満家庭を築いているらしい真也のご両親も。 そして、12年も両片想いを続けてきたあさひと真也も。 いろんな恋の形があって、実れば天国・実らなければ地獄の中で、みんな必死に足掻いて頑張っているんだなぁと。 そんなことを思いながら、夏空を仰いだ。 恋はスバラシイ。 <了>
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